みすず書房

多木浩二

たき・こうじ

1928-2011。哲学者。神戸市に生まれる。旧制第三高等学校を経て、東京大学文学部美学科を卒業。東京造形大学教授、千葉大学教授、神戸芸術工科大学客員教授などを歴任。1960年代半ばから、建築・写真・現代美術を対象とする先鋭的な批評活動を開始。1968年、中平卓馬らと写真表現を焦点とした「思想のための挑発的資料」である雑誌『プロヴォーク』を創刊。翌年第3号で廃刊するも、その実験的試みの軌跡を編著『まずたしからしさの世界を捨てろ』(1970、田畑書店)にまとめる。思考と表現の目まぐるしい変貌の経験を自ら相対化し、写真・建築・空間・家具・書物・映像を包括的に論じた評論集『ことばのない思考』(1972、田畑書店)によって批評家としての第一歩をしるす。現象学と記号論を駆使して人間の生と居住空間の複雑なかかわりを考察した『生きられた家』(1976、田畑書店/2001、岩波現代文庫)が最初の主著となった。この本は多木の日常経験の深まりに応じて、二度の重要な改訂が後に行われている。視線という概念を立てて芸術や文化を読み解く歴史哲学的作業を『眼の隠喩』(1982、青土社/2008、ちくま学芸文庫)にて本格的に開始。この思考の系列は、身体論や政治美学的考察と相俟って『欲望の修辞学』(1987)『もし世界の声が聴こえたら』(2002)『死の鏡』(2004)『進歩とカタストロフィ』(2005、以上青土社)『「もの」の詩学』『神話なき世界の芸術家』(1994)『シジフォスの笑い』(1997、以上岩波書店)などの著作に結晶した。日本や西欧の近代精神史を図像学的な方法で鮮かに分析した『天皇の肖像』(1988、岩波新書)やキャプテン・クック三部作『船がゆく』『船とともに』『最後の航海』(1998-2003、新書館)などもある。1990年代半ば以降は、新書という形で諸事象の哲学的意味を論じた『ヌード写真』『都市の政治学』『戦争論』『肖像写真』(以上岩波新書)『スポーツを考える』(ちくま新書)などを次々と著した。生前最後の著作は、敬愛する四人の現代芸術家を論じた小著『表象の多面体』(2009、青土社)。没後出版として『トリノ 夢とカタストロフィーの彼方へ』(2012、BEARLIN)『視線とテクスト』(2013、青土社)『映像の歴史哲学』(2013、みすず書房)がある。