みすず書房

矛盾と対立とにみちたモダン・アートの意義を理解するうえに、感受性に貫かれたハーバート・リードの評論活動は独自な普遍性と影響力をもっている。本質的にロマン主義者のリードはシュルレアリスムの運動に積極的に接近し、また一方では構成主義のなかに究極の実の現われを認め、またインダストリアル・デザインと機能的美学を推進するかたわら新しい美術教育の理を展開したのであった。
「芸術の意味」は著者の最初の造形芸術論といってよいもので、1931年にロンドンのフェーバー&フェーバー社から刊行された。詩人として出発したリードは第一次世界大戦に出征し、1918年に帰還すると、その翌年に大蔵省に就職して1922年まで勤務した。そののちヴィクトリア・アンド・アルバート美術館に転職、陶器とステンドグラスの部門を扱うことになった。陶器のような地味で自意識の少ない芸術は、絵画の傑作よりも時代をよく代表していること、しかもこうした限られた一分野の綿密な研究は却って芸術全体を把握するのに理想的な方法であることを悟った、とリードは述懐している。こうしてBBCの週刊誌「リスナー」に連載しはじめた造形芸術論が、この「芸術の意味」であった。
この邦訳は1957年の初刷いらい、多くの版を重ねて、美術史をまなぶ人の必読書となった。芸術が生活の大きな重要部分となった現在、美術史の流れ全体をみわたし、かつ一貫した詩人の魂による解明は、たえず人間の原点を指し示している点で、何人にもよい伴侶となるであろう。
[1958年初版1966年新装発行]

目次

I
1 芸術の定義/2 美感/3 美の定義/4 芸術と美の区別/5 直観としての芸術/6 古典的な理想/7 画一的でない芸術/8 芸術と美学/9 形態と表現/10 黄金分割/11 幾何学的調和の限界/12 歪曲/13 パターン/14 個人的な要素/15 パターンの定義/16 形態の定義/17 絵をみるとき何が起るか/18 感情移入/19 感傷/20 形態の必要/21 内容/22 内容のない芸術・陶器/23 抽象芸術/24 ヒューマニスティックな芸術・肖像画/25 心理的な価値/26 芸術作品の諸要素/26a 線/26b 調子/26c 色彩/26d 形態/27 統一/28 構造上の素因
II
29 原子芸術/30 ブッシュマンの絵画/31 原始芸術の意義/32 有機的な芸術と幾何学的な芸術/33 有機的な原理と幾何学的な原理の混淆/34 芸術と宗教/35 芸術とヒューマニズム/36 農民芸術/37 国家的な芸術・エジプト/38 コプト芸術/39 ピラミッド/40 エジプト彫刻/40a 先コロンビア芸術/41 歴史的様式の起源/42 中国の芸術/43 ペルシア芸術/44 ビザンティン/44a ケルト芸術/45 キリスト教芸術への接近/46 物質的な力と非物質的な力/47 教会の影響/48 ゴシック芸術/49 イギリスの芸術/50 文芸復興期の芸術/51 イタリアの巨匠の素描/52 素描芸術/53 知的芸術/54 リアリズム/55 文字通りのリアリズムと描写的なリアリズム/56 自然主義/57 リューベンス/58 エル・グレコ/59 バロックとロココ/60 バロックの定義/61 ロココの定義/62 ロココ芸術の本質/63 風景画/64 イギリスの伝統/65 ゲーンズボロ/66 ブレーク/67 ターナー/68 芸術と自然/69 コンスタブル/70 ドラクロワ/71 印象派の画家たち/72 ルノアール/73 セザンヌ/74 ヴァン・ゴッホ/75 ゴーガン/76 アンリ・ルソー/77 パブロ・ピカソ/78 シャガール/79 民族的な要因/80 抒情と象徴主義/80a 表現主義/81 パウル・クレー/81a マックス・エルンスト/81b サルヴァドール・ダリ/81c 近代彫刻/82 ヘンリー・ムーア/82a バーバラ・ヘップウァース
III
83 芸術家の立場/84 トルストイの立場/85 トルストイとウァーズウァース/86 別の立場——マティスの立場/87 伝達——感情と理解/88 芸術と社会/89 造形の意志/90 究極の価値

訳者のノート
人名索引