みすず書房

「ここにはもはや、おとぎ話と隠れん坊が〈経験の胎盤〉を用意し、成年式が祭式的・物語り的枠組みの中で経験を〈実演〉した一続きの成長過程はない。……二十世紀人にとっては、〈追放されてあること〉はかつてのような演劇的経験ではなく、一時的な迷い子の経験でもなく、存在そのものの基礎条件となっている」(「或る喪失の経験」より)

この本は、1975年から81年に至る数年間に「折に触れて」書かれた文章から成る。しかも、それは「単純な年代順の〈崩壊史〉なのである」(まえがき)。崩壊・没落の観点からの原始社会論である「隠れん坊の精神史」に始まり、律令国家・幕藩体制、それぞれの崩壊を、『保元物語』と吉田松陰に考察し、あとは明治国家の消長、昭和軍国時代の元首のぶざまさへの批判とつらなる。人間の前史が終ろうとする時に、人間の〈精神〉と〈経験〉の全体像としての〈歴史〉を描こうとするささやかな試み。

付録に、『野ざらし紀行』『歎異抄』ノート新収。