みすず書房

かつて、フランスのスタール夫人はドイツを「ヨーロッパの心臓」と表現した。ドイツ人は、つねに欧州大陸の命運を握りながら、しかし一貫して自分たちのアイデンティティーを捜し求めている。この民族のルーツは複雑で、歴史に登場するその顔はほとんど変幻自在であった。
本書は、ドイツ人の重層的な像を、いくつかの角度から、ウィットに富んだ物語ふうに描きこむ——ヒトラーと新しい世代、ドイツ・マルク、宗教改革の複雑な影響、ユダヤ人問題、女性の地位の一進一退、教授と学生、ドイツ的ロマン主義とは何か、文学、軍隊、シュプレー河畔のアテネと呼ばれた街ベルリンの危機、民主主義とナショナリズムのゆくえ、そして“ぞっとする”ドイツ語。
著者は現代アメリカにおけるドイツ史の第一人者である。そして本書は、何冊かの大著をものした後にはじめて執筆された。ドイツの見過ごされがちな生活文化の実際を、政治、歴史、文学の豊富な知識をとおしてきめ細かく理解し、その洞察を〈変化と連続性〉という視点からまとめている。さらに日本語版には、80年代の激動をどう考えるかについて、新しい一章が書き加えられた。
ドイツ本国でも好評を博し、ロングセラーを続ける傑作である。われわれのドイツ人理解を新たに深める一冊になるだろう。