みすず書房

〈東〉ティモールは、国際関係のホットな焦点の一つである。しかし、このポルトガル領の島を、太平洋戦争中の4年間にわたり、日本が武力占領していた事実は意外と知られていない。
真珠湾攻撃の2ケ月前、日本は〈東〉ティモールの首都ディリに総領事館を、ほぼ同時に南洋群島の中心パラオとディリを結ぶ航空路を開設した。戦前期日本の「南進」政策の主流からは視野の外にあったこの地域でのにわかな動きは、インドネシア東部の海域、オーストラリアの北部沿岸をにらむその地政学的位置にあったことは確かである。この日本の脅威に対し、関係各国はどう対応したか。著者は日本・欧米の文書を駆使し、20世紀前半のアジア太平洋地域をめぐる列強と、日本の「南進」との碓執の歴史を見事に描いている。
インドネシアが実効支配する前年に、この島を訪れた文化人類学者は、こう記した。「ポルトガル領チモールは、今日の政治=経済的世界では辺境である。しかし、ここに起きつつある地揺れは、今日の世界とどこかで繋がっているのだ。」(山口昌男「チモールからの手紙」より