みすず書房

ソ連邦の解体後、マルクス主義の思想的地位は地に落ちてしまっているかに見える。しかし、現代資本主義体制・支配的イデオロギーの批判の場において、その生命力は回復しうると著者は考える。その回復の原動力は、思想の過去の軌跡の誠実な総括と、現実を透徹した目で見据えるリアリズムの精神でしかない。

本書は、マルクス主義の理論的中枢の一つであるべき科学論について、救いがたいドグマティズムに陥った過去の思想形態の低劣さの根源を、スターリン主義イデオロギーに求め、容赦なく抉り出す。「正統派」マルクス主義を自称した愚劣な思想形態にこれほど手厳しい、反面、この思想の冬の時代に、古典的マルクス主義の学問的方法の蘇生をこれほど真摯に訴えた著作はない。

マルクスとエンゲルスの古典に発する、リャザーノフ、ポグダーノフ、トロツキイ、ヴィゴツキイ、ブルトン、ブロンシュテイン、ランダウらの思想がここに生き生きと復元される。現代日本におけるマルクス主義理論再生の第一歩はここに印された。

ロシア革命から80年を経て、その遺産の一切を葬り去ろうとする時流に抗し、歴史研究と現代の課題に挑む情熱の結晶した力作である。