幻滅論
- 著者
- 北山修
「これは何のための本かを一言で言うなら、私自身の悩ましくも楽しい旅の記録であり、それに公共性を付与するべく、人生におけるいくつかの不幸に強くなるためという思いでまとめた本だ」
文化畑から医学の世界に入って30年、著者は臨床の日々の中で、ウィーンで生まれ、欧米で発展してきた精神分析を、文化の役割を強く意識して、日本語による日本の臨床に生かす道を考えつづけてきた。そのために、「語られた過去」の総和としての神話や昔話に注目しながら、「イザナキ・イザナミ神話」や異類婚姻説話などの悲劇の意味を考え、「甘えの構造」を深め、言語の研究をすすめてきた。とくにこの数年は、浮世絵の中に夥しい数の母子像を発見して、その構図を分析してきた。そこに読みとれるのは、人と人とのつながりであり、つながりがありつづけているという幻想であり、つながりが断ち切られることから生じる幻滅であった。本書にはこのような考察のすべてが収められている。
『幻滅論』は、自分と他人と環境とのつながりを知るための本でもある。子が母から切り離されるとき、抱える環境から自分が切り離されるときに生じる幻滅は、けっしてマイナスの体験ではない。「あの素晴らしい愛をもう一度」と嘆きながらも現実と触れあうチャンスとなるのだ。類のない日本文化精神分析の本が、ここに誕生した。
「幻滅論」の著訳者:
目次
はじめに
I 言葉にすること
言語的治療として/言語の理論/言語的実践のために
1 人と人のつながり
II 情緒的交流
情緒の言葉/言語と情緒の対立図式/情緒的洞察/言語の優位
III 描かれた過去から
反復の起源/浮世絵の母子像/モノを媒介にして/浮世絵の中の人工性/調査結果
IV 二者間内交流と二者間外交流
開かれた二者関係/二重の交流/若干の国際比較/あの歌よもう一度
2 「つながり」の構造
V 春画のなかの子どもたち
父親の場所/好色と禁止/性交に参加する子どもたち
VI 「甘え」とその愛の上下関係
「甘え」の位置関係/愛の上下関係/目下から愛情/パースペクティヴの交替
VII 幻滅と比喩
言語以前/「つながり」の比喩/「つながり」の幻滅/部分から全体へ/反省/いること
VIII 幻滅と脱錯覚
いわゆる「幻滅」とは/父親による幻滅/クラインの幻滅/幻滅を回避する可能性/中間領域の錯覚/父親のこと/幻滅しないなら
IX 浮かんで消える
幻滅の物語/見るなの禁止/はかない対象/生の執着と死のあきらめ/もののあはれ
3 幻滅の臨床
X 恥の取り扱いをめぐって
「蓋をとる方法」/症例・ドラ/露出と拒否の物語/幻滅の手前/理論的考察/かかる時間
XI「恩」概念の臨床的意義について
恩と罪悪感/臨床体験――人の世話になりたがらない/患者たち/返しきれない恩
XII 阿闍世コンプレックスの罪悪感
治療経験/自虐的世話役/急激な幻滅と罪悪感/絵による提示/治療者の同一化/現実の価値
XIII 物事と言葉
幻滅の歴史/治療現場の饒舌/形あるものの力/多義的なコトバ
XIV 環境の価値
精神分析の文化論/環境決定論との出会い/英国/環境決定論/ポテンシャルとしての「本当の自分」/その取り扱い/しかしウィニコットにはなれない
XV 現実依存
依存の事実/関係を織り込むこと/「膨れ上がるイメージに比べて現実が小さすぎる」という女性患者/現実の価値
さいごに
XVI 日本語臨床と独創性
独創性と事典/臨床実践から書いたものへ/日本人のオリジナリティ
あとがき
初出一覧
この本の関連書
「幻滅論」の画像:
「幻滅論」の書籍情報:
- 四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/264頁
- 定価 1,995円(本体1,900円)
- ISBN 4-622-03968-0 C1047
- 2001年4月16日発行






