みすず書房

「アメリカ映画の特徴は、その潜在的多様性にある。それはもっぱら国外からの人材流入(移民と亡命者)と国内の人種的不均衡(人種差別)によってもたらされた。……じっさいアメリカ映画史は長らく黒人映画作家や亡命ユダヤ人作家のフィルムを正しく評価することを怠ってきた。そのことはアメリカ映画の成立と展開にどのような作用をおよぼしてきただろうか。本書で主として問題となるのは、映画史の、そのようなオルタナティヴな側面である」(「序言 マイナー映画のために」)

映画とは何か? われわれは、映画をいかに観ているのか? 著者は〈ハリウッド映画〉の名の下に語られてきた一切の前提を再審に付す。ヒッチコックの『サイコ』やフリッツ・ラングの傑作群の、驚くほかない斬新な解読、これまで死角に置かれてきた黒人専門映画の歴史、D・W・グリフィスの初期インディアン映画の緻密な検証など、刺激的でトータルな視点から、〈映画〉の過去と現在を問い直すのだ。

シャープな発想、スリリングで卓越した分析力で、映画批評/理論きっての論客として知られる著者、久々の本格的映画論集たる本書は、一読巻をおく能わざる知的興奮がみなぎっている。