みすず書房

眼は聴く——たとえばファン・デ・フェルデの絵画『砲撃』を前にしたとき、われわれは「撃て」の合図、砲煙の噴出を伴った突然の轟音の爆発を聴く。眼によって知性を培うと同時に、耳をそば立てることを学ぶならば、われわれには絵のなかに音、音楽、そして沈黙がみえてくる。それはとりわけて沈思を起源にもつオランダ風景画、その観想の主題、その静寂の源泉を理解する必須条件である。
詩人・戯曲家であり、外交官でもあったポール・クローデルは、姉カミーユの影響もあって、洋の東西を問わず、世界中の美術作品に接してきた。彼はそこに詩人としての繊細な感覚と同時に、作品にみられる土地・人々・生活の細部を、自分の体験にもとづいて聴いていた。その唯一の美術論集である本書、詩と地理と芸術の一体化した『眼は聴く』を評して、ルネ・ユイグは「マルロー以上のもの」と語っている。
本書の冒頭をかざる「オランダ絵画序説」のフェルメール、レンブラント論を始め、ゴヤやベラスケスを語ったスペイン絵画、さらには中国の絵や、ストラスブールの大聖堂、そして姉への称賛と批評と哀しみを切々と書いた「カミーユ・クローデル」まで、静かで重量感のある文章でつづる。

目次

オランダ絵画序説
註釈いくつか
スペイン絵画
病人ノ夢
芸術における道
その他の註釈
フランスの大聖堂のステンドグラス
ストラスブールの大聖堂
ヴェズレー
宝石の神秘学
ガラス細工の神秘
カミーユ・クローデル

訳者あとがき
初出一覧