みすず書房

グレン・グールド書簡集

THE GLENN GOULD LETTERS

判型 A5判
頁数 648頁
定価 7,480円 (本体:6,800円)
ISBN 978-4-622-04419-2
Cコード C1073
発行日 1999年3月10日
備考 現在品切
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グレン・グールド書簡集

1982年にグレン・グールドが没してから、数多くの書物が出版され、無数の記事や論文が活字となり、ラジオ・テレビ番組も放送・放映されてきた。さらには小説にも登場し、カナダはもちろんヨーロッパ、日本でもグールド回顧展が行なわれた。この現象が示すのは、これまでの音楽ファンのみならず新しい世代においても高まり続ける、グールドの生涯と業績に対する関心である。

電気的な訪問とも呼ぶべき電話とならんで、グールドは口述筆記による書簡を多くの相手に出した。カナダ国立図書館グールド・アーカイヴに収められた2030通から注意深く選ばれた232通は、各国語版中最多であり、編者・訳者による註・年譜・索引とともに「グールド的世界」(グールディアーナ)にとってきわめて意義深い資料、小辞典となっている。

グールドはマクルーハンについて「彼は相変わらず興味をかきたてる、注目すべき人物なのです」と書いた。21世紀を迎えつつある今日、これはグールド自身についても言えることだろう。ここに収められた一連の書簡が描く、その多面的な実像はこの類い稀なる音楽家、メディア・アーティスト、思想家、複雑な一個の人格への理解を深めたい人々の興味をそそるであろう。

訳者からひとこと

この2007年はグレン・グールドの「生誕75年+没後25年」である。
グールドをめぐる催しが今年は世界各地であるが、その最大のものは母国カナダの文明博物館(オタワ=ガティノー)で9月末より始まる特別展「グレン・グールド展——天才の響き」であろう。
カナダの文明博物館は、人類の文化・文明の歴史を追い、そこに「カナダ」の誕生と歩みを位置づける常設展を主軸とした、カナダ人のアイデンティティの形成に資する施設である。つまり、ここで展覧会が開かれるということは、カナダ(人)の自己確認と対外的アピールのアイコンとしてグールドが選ばれたことを意味する。
確かにアイデンティティの問題はカナダ人グールドの思考を理解する上で大切だが、彼に「カナダ」をどこまで背負わせるべきなのか、わからない。カナダでのグールド評価は欧米や日本での人気を追いかけてきた面があるけれども、少なくとも私たち日本人とグールドとの関係は、そういう歴史・文明・文化における位置づけよりも、むしろ、もっとパーソナルな傾向が強いと思われる。
グールドの演奏ならではの躍動感、抒情性、挑発性に驚かされ、夢中になった人にとって、グールドはかけがえのない親密な友となる。その演奏をさらに聴きたいし、生涯について詳しく知りたい、書いた文章も読みたい。
要するに、グールドの「声」をもっと聴きたいのだ。録音の背後に聞こえる鼻歌だけではない。一聴して「グールドだ」とわかるあの弾き方や、自由闊達で良質のユーモアに彩られつつも、どこかはにかみがちな各種の文章や発言にも、グールドの「声」が宿っている。『著作集1・2』『書簡集』『発言集』は、まさにそうした「声」の宝庫である。録音や映像を通じてグールドの「声」に魅せられた人は、活字の中にも同じ「声」をぜひ読みとっていただきたい。