みすず書房

カンバスの上に一つの点を打つと、辺りの空気が動き出す。一筆のストローク、一個の石、一枚の鉄板は、外との対応において力に漲る生きものとなり、物や空間が呼応し合って、鮮やかに響きわたる余白が生まれる——1970年代、有機的な組替えやズラしによって、外の空気を浸透させ他を受け入れる作品を精力的につくり、あるがままをアルガママにする仕事をした「モノ派」、その運動の柱として知られ、国際的に活躍する李禹煥の著作を集める。

自身の芸術について、セザンヌやマチスに始まり、ゲルハルト・リヒター、ペノーネ、若林奮、白南準ら現代芸術の旗手たち、古井由吉や中上健次などの作家たちについて、そして、ものと言葉について…

自分と、自分をとりまく外の世界。その境界にあたらしい刺激的な見方を開く。

目次

余白の芸術
余白の芸術/無限について/中間者/同一性と差異性/表現と身体/絵画の運命/視覚の運動/砂漠/ちょっと立ち止まって/関係項 Relatum(stone,gum measuring,space)/石の発見/石を訪ねて/プランニングと現場/制作のプロセス

さまざまな作家
八大山人の「木蓮の図」に想う/サント・ヴィクトワールの絵/セザンヌの水彩画/マチス雑感/モンドリアン/ゲルハルト・リヒター/ダニエル・ビュレン/ペノーネ/アニシ・カプア/F・ステラさんへ——過剰な絵画/若林奮の道/高松次郎の「影」再考——「子供の影」を中心に/石の借用/鏡を用いて/白南準——ヴィデオを越えて/谷川雁、または隠れの仕草/古井由吉あるいは七〇年代の芸術/中上健次さんのこと/中上健次の混在性

芸術の領分
絵画における抽象性の問題/視覚について/外界と共に/画家の領分/ロボットと画家/絵画の設定性/絵という輪——梅原龍三郎と小林秀雄/画家と二つの眼差/一瞬の見えること/塗り直し/毛筆による/筆の妙/絵画の色彩/生きた手/手について/絵画と彫刻の在り処/彫刻のモチーフ/彫刻の条件/鉄板と石について/版画ということ/版画について/再制作(?)——インタビューに答えて/いけばな/いけばなに思う

新しい表現の場のために
二〇世紀の美術/アメリカの美術/日本の現代美術に/否定への意志/新しい表現の場のために/現代美術と日常/混沌への憧れ/衰退の美術/脅かし/離合集散/解体に向かって/現代のキーワード/脳中心思考/管理の外/想像力/解ることと知ること/透明というと/料理の組立/東アジアの料理/眼の摂理/明暗/作品の場所性/美術館の役割

ものと言葉について
モノ派について/起源またはモノ派のこと/近代の超克/虚構批評/親切心/言葉と沈黙/日本語と翻訳/言葉について/言葉が/砂漠では/ベルガモの夕暮れ/予感またはワイン/松について/ものを選ぶということ/躰と服のあいだ/自然ということ/韓国人の文化と自然/風化より/未知との対話/絵を習う少年に——ある中学生への手紙

画集の断章より