みすず書房

あたらしい辻まことの誕生である。

「辻まことの全集と聞いて、いちばん驚くのは辻まことだろう。あっけにとられた顔をして、つぎにはクスクス笑いだすかもしれない。いったいいつのまに、こんなに書いていたのだろう? ペンの仕事があちこちに埋もれていた。画ペンの仕事がおびただしく散らばっていた。あらためて集成されたところに当人が立ち会ったとすると、世に現われた未知の生き物を見るような目つきで、しげしげとながめるのではなかろうか」(解説から)

数奇な環境にありながら、激動の時代をへて、はぐくまれた天性の資質をそなえた人物。わが国ではまれな諷刺家であり、詩情にみちた画文を創出した辻まことのすべて。

本巻は16歳で発表した「エレンブルグに会う」(1929)から「ムササビ射ちの夜」(1967)までの135篇をおさめる。挿絵は初出時の作品から選択、カラー4点を含む239点。全巻に、池内紀氏による書き下ろしの解説を付す。

書評情報

勝峰富雄(編集者)
Jane 2010年冬号