みすず書房

本巻は1968-1975年に発表された画文、詩、戯曲、講演、エッセイ、書評を編年順におさめ、掲載誌紙、年代が特定できなかった諸編、手稿、新資料を「補遺」としてくわえた全104篇。挿画は初出時の作品を使用している。
著者が大人の絵本と呼んだ「ずいどう開道」「一所懸命の人」「奥武蔵非推奨コース」「旅はみちづれ」「けもの捕獲法」にみられるユーモアと詩情と童心が渾然一体となった物語、冷徹な観察力で人間の行為の理不尽を描写した戦争中の中国での体験談「山賊の話」「写生帖」「告天子」「虫の意気」「はじめに女ありき」といったカリカチュア的戯曲など多様なジャンルの仕事をここに網羅することができた。辻まことの言葉は、読者に交感をもとめ、沁みるように訴えかけてくる——「人と人との間に燃える焔がなくなると、言葉はどういうことになるか、その変化を文化だの進歩だのと私には思われない」

書評情報

勝峰富雄(編集者)
Jane2010年冬号