みすず書房

表現が的確で、この上なく硬質。人と世の中を見る目は地の底にとどくほど深いが、それを地上のユーモアにつつむすべをこころえていた。あわただしく猥雑なジャーナリズムの一隅で作られた。にもかかわらず、いささかも時代のアカにさらされていず、サビついてもいない。ひと目で識別がつく。いまなお、明確な現実感をもって呼びかけ、訴え、楽しませてくれる。

画文による批評のスタイルが、辻まことの精神のスタイルと合っていたせいだろう、「忠類図譜」「余白の告白」「教祖オブジェとその信者たち」「印象とひとりごと」「石族譜」といった、この国ではまれなカリカチュアの傑作が生みだされることになった。

本書にはこのほか、辻まことのもうひとつの特質であるウイットとユーモアをふんだんにもりこんだ軽妙なタッチの「君はモテない」「セクシーレディー」「男よ君は弱かった」「無職遠眼ガネ」「オン・ザ・ロックの人人人…」など、さまざまな雑誌から集めた漫画集、さらに、絵入りの文章「夢の大島タヒチに非ず」「スーパー・オンボロ物語」「スキーガッコのセンセもつらい」「ニッポン腐蝕史抄」などを収める。全5巻完結。