みすず書房

没後三十年(2004)には、その足跡を丹念に検証した全集五巻の完結をみている。思わずひとをひき込んでしまう巧みな話術、興にまかせて奏でるギターのつまびき、山と森の精の謎を語り、絶妙なアフォリズムを含んだユニークな戯画を創出した、辻まことの全貌がここではじめて明らかとなった。

本書は、夜学のかたわら勤めていたこども理学会での仕事「四十倍の天体望遠鏡のつくり方」、敗戦直前に刊行された自然科学の図鑑『淡水魚』のためのイラスト、草野心平の詩集や開高健の単行本、児童書の装幀・挿画、まんがカット、映画スチール、デザイン、似顔絵集、岡本太郎との対談・座談、新発掘の画文などを収めて、この稀有な自由人の魅力の一端にさらに華をそえることになろう。

辻まことは友人に贈った本の扉にこう認めている、「人を取除けてなおあとに価値あるものは、作品を取除けてなお価値ある人間によって作られるような気がする」。