みすず書房

「読んでおかないと恥だから読むのではなく、おもしろいから読む……読書はストックではなくフローである。新しい書物は次々に出され、知識はさまざまに形を変えて人を訪れる。その流れの岸に立って、人は多くを読み、あるものを忘れ、あるものを記憶にとどめる。人の心の中でダイナミックな教養がつくられつつある。/昔、寺山修司は〈書を捨てよ、町に出よう〉と言った。彼はその時、気付いていなかった、書物がそのまま町であることに。」

読書人待望の『読書癖』3巻目。期待にたがわず本巻も、本と読書をめぐる刺戟的でおもしろいエッセー=書評で埋まっている。作家の蔵書や再読の欲望について、吉田健一の文庫本、林達夫・丸谷才一・藤沢周平の魅力など、読書万般、あらゆるテーマにわたる。わけても、クンデラやエーコや谷川健一やル・クレジオの作品を論じた長尺の文章は、論理の明晰とエレガントな行文において、質量ともにTLSのそれに匹敵する書評のお手本ともいうべきものである。読書は孤ならず、本書は人びとを〈読書の共同体〉へといざなう出色のガイドブックである。

目次

I
作家の伝記
編集は楽しい
大計画 他
II
ストックの読書、フローの読書(あるいは、さらば必読書)
『ソビエト新事情』
いかに蔵書を退治するか
「曠野」について
昆虫採集と随筆の知られざる関係
『スタンレー探検記』
軽い詩を求めて軽石を得る
理想の書斎
探偵の肖像(笠井潔論)
再読の欲望について
『森林美学』推薦の辞
ふしぎなスカラベ
『猫の縁談』
沖縄個人誌の元気
ローマ帝国へ逃げる
『映画千夜一夜』
吉田健一の文庫3点
吉田健一集成
『三屋清左衛門残日録』について
『女ざかり』
親の世代
優しい長電話
陽気な哲学者
『北斗詩篇』に寄せて
古典再読
『木に会う』
知の軽いステップ
しばらくアフリカへ
またもアフリカへ
『今森光彦・世界昆虫記』
『台風の眼』
『移り住む魂たち』
世界の門
推薦する一冊(『科学という考えかた』)
III
ヴェルナー・フロイント『オオカミと生きる』
ル・クレジオ『メキシコの夢』
谷川健一『南島文学発生論』
ミハイル・プリーシヴィン『ロシアの自然誌』
ミラン・クンデラ『不滅』
イアン・ハミルトン『サリンジャーをつかまえて』
ウンベルト・エーコ『フーコーの振り子』
ル・クレジオ『オニチャ』
あとがき