みすず書房

ある家族の伝記

ブルームズベリー叢書

MARIANNE THORNTON

判型 A5判
頁数 418頁
定価 7,040円 (本体:6,400円)
ISBN 978-4-622-04636-3
Cコード C1098
発行日 1998年1月21日
備考 現在品切
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ある家族の伝記

「私をミルトンの大きく枝を広げた木の下に葬っていただきたい……葬儀には誰に対しても出席して欲しいと要請していただきたくありません……とくに、お花はいっしょに埋葬しないでください。お花はそんなことをするには、きれいすぎますから。賛美歌の斉唱も弔辞もいりません。お墓には私の名、年齢……」(マリアン・ソーントン)。
本書は、フォースターに8000ポンドの遺産をのこし、彼の作家人生を実質的に可能にしてくれた恩人=大伯母マリアン・ソーントンの伝記である。18世紀末に生まれ、90歳で亡くなるまで未婚で通した、この社会的には無名に近い女性の一生を、なぜフォースターは最後の著作に選んだのか?
それは、ソーントン家に流れる英国ブルジョワジーの血やバタシー・ライズ(もうひとつのハワーズ・エンド)とのつながりを自ら認識し、その継続を確認する作業であったろう。一族のおびただしい手紙や記録を調べるにつれて、彼はしだいに大伯母マリアン・ソーントンの人間像に魅せられる。愛する人びととの死別、銀行経営の危機、弟との仲違いやバタシー・ライズからの放逐、さらにハナ・モアウィルバーフォース、マコーレーといったクラッパム派の人びととの交友——一族の成功と挫折、悲劇と喜劇の中から、ユーモアを解する非凡な女性像が浮上してくる。本書は、フォースターの愛によって刻まれた、19世紀イギリスをみごとに生き抜いた一女性へのオマージュであると同時に、時代の流れを生き生きと描いた社会史=物語である。加えて、作家フォースターの文学的背景を知る上で、これは座右の一冊といえよう。