みすず書房

遂に大作『神聖喜劇』の執筆が開始され、作家・大西巨人は気の遠くなるほど長期にわたる闘いの日々に入っていく。だが、その傍らで断続的に書き継がれていくエッセイの筆は、ますます研ぎすまされ、射程の広がりと深みを増していく——

現在もなお克服し得ず、形を変えて立ち現われる思想の病理を衝く「ハンセン病問題」、三島事件を予知し、その理論的問題性すら抉り切った「軍隊内階級対立の問題」、《学校》という制度のはらむ死角を、20年以上前に見事に指摘した「文部大臣への公開状」、「俗情との結託」のテーマを深化させた、論争的文学原論「作者の責任および文学上の真と嘘」ほか、珠玉の論考を収録する。他ならぬこの国で考えることへの勇気を、私たちはここから学ぶことができる。

巻末対話は、若き批評家、武藤康史氏を迎えて、「共産党との関わり・その他」と題し、党での活動、「除名」の経緯を含めた貴重な体験的証言をインタヴューする。

書評情報

國分功一郎(哲学者)
日本経済新聞「半歩遅れの読書術」2016年10月30日(日)