みすず書房

〈新しい女たち〉の世紀末

判型 四六判
頁数 280頁
定価 3,190円 (本体:2,900円)
ISBN 978-4-622-04676-9
Cコード C3095
発行日 1999年3月23日
備考 現在品切
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〈新しい女たち〉の世紀末

19世紀末(1880-90年代)のイギリス小説は、かつてなかった一群の新しいヒロイン像を創り出した。ヴィクトリア朝の良妻賢母型の〈家庭の天使〉に代わって、〈新しい女〉と呼ばれる多様なヒロインが登場してくる。これらの〈新しい女〉たちはいかなる文化的・社会的コンテクストにおいて誕生したのか? また、彼女たちの「新しさ」とはいったい何なのだろうか? さらに、これらヒロインたちの背後に「女」にかんする新しい認識があるとするなら、それは小説という文学形式にどんな新しい可能性を切り拓いたのか?

〈理想の女性=肉体をもたない天使〉というヴィクトリア朝の支配的イデオロギーから、作家たちはいかに女性を解放したか?本書は、〈月の裏側=女性の真実〉を明らかにせんと苦闘したオリーヴ・シュライナーからジョージ・エジャトンの短篇群やハーディの『テス』まで、多くの作品を分析=検証しながら、この世紀末における〈女たちの変貌〉の歴史と意義を綿密に辿ってゆく。著者の射程ははるか、〈余った女〉や〈やってのけた女〉の問題、隠喩としての性病や女吸血鬼としての新しい女、さらに『パンチ』のなかの新しい女の扱いや自転車登場の意義にまで及び、テーマは多岐にわたっている。かかる視野の広い探究によって19世紀末の文学・文化を読み解くことはおのずから、人種・階級・ジェンダーをめぐるさまざまなコンフリクトのさなかにある現時点の文化状況を探る上で、必須の作業となる。

19世紀末のヒロイン群=ミッシング・リンクを発掘し、失われた文学的海図を現代に蘇らせた力作。