みすず書房

「ボルヒャルトは何か伝えるべきことがあると、まず読者を煌めくパラドクスで畏縮させておいて、それから、大多数の一般人を寄せつけない高度な知の所有者として語りだすのです。彼は自分の表現に秘儀に与った者のパトスを授けます……このラテン文化の再発見は、学術研究の成果ではなく、イタリアの大地との生きた触れ合いがもたらした成果に他なりませんでした。」(E・R・クルティウス)
本書は、ルードルフ・ボルヒャルトのトスカーナをめぐる三篇の秀抜なモノグラフィを集成したものである。彼の著作はこれまでのところ、『ヴィラ』と『ウェルギリウス』の二篇のエッセーのみ邦訳されているが、ともに傑作の誉れが高い。またその人物については、アドルノの見事な作家論が意を尽している。ボルヒャルトは本書において、イタリアはピサを中心に、その歴史風土と文化をトータルに把え直している。ダンテの『神曲』とジョヴァンニ・ピサーノの彫刻・絵画にたいする深い理解に立脚しつつ、著者は、中世とルネサンスの分水嶺、中世文化がはるかに攀りつめた極点の有り様を克明に辿ってゆく。とまれ本書は、中世とルネサンスとイタリア文化の錯綜した関係を幻視し、孤独な帝国都市=ピサに集約されたその諸相(言語・美術・風土)を分析・展望した文化史の記念碑的著作といっても過言ではない。