みすず書房

92人の92篇の詩と断章を、本の世界を語らせては第一級の詩人、長田弘が選び出して編んだアンソロジー。日本では中島敦、金子光晴から松浦寿輝まで、外国ではツェラン、ボルヘスたちが、書物や作家を名指して書いたゆたかな詩の数々が一巻に。選者の言を聞こう。「この本についての詩集に収めた詩を読んで覚えるのは、どう言ってもかまわない物言いにはない、その名でなければならない具体的な名というものがそなえる、深々とした喚起力です。アリストファネスという一語、ファーブルという一語、チェーホフという一語が、それだけでその全体を喚起してしまう。本についての詩集のどの一篇からも伝わってくるのは、固有名の秘めもつ言葉の力です。…〈二十世紀以後の詩〉の詞華集をつくりたいと、ずっと思ってきました。詩を必要とし、言葉を軽んぜず、なお本を愛する人びとに、今、この一冊を献じます。」

目次

長田弘 世界は一冊の本  …序詩として
中島敦 遍歴  …アウグスティヌス、アナクレオン、アミエル、……
金子光晴 召集  …アリストファネス
オーデン (中桐雅夫訳)W・B・イエイツをしのんでIII  …イェーツ
安西冬衛 打楽器  …ヴァレリー「最後のマラルメ訪問」
大岡信 「文明」と「文化」の論  …ヴィーコ「新しい学」
リンゲルナッツ(板倉鞆音訳) ウェーデキント追憶  …ヴェデキント
日夏耿之介 書齋に於ける詩人  …エラスムス、ほか
多田智満子 エクピローシス以後  …エリアーデ「永遠回帰の神話」
天沢退二郎 墓守として  …円卓の騎士
新川和江 ヨーロッパの顔  …オーデン「見よ、旅人よ!」
丸山薫 カロッサとリルケ  …カロッサ「ルーマニア日記」
八木重吉(しづかなるひは)  …キーツ
吉岡実 ルイス・キャロルを探す方法(わがアリスへの接近)  …キャロル「鏡の国のアリス」
瀧口修造 クレーはここにいる  …「クレーの日記」
堀川正美 死んだアメリカの詩人に  …クレイン
石川啄木 古びたる鞄をあけて  …クロポトキン/幸徳秋水訳「?麭の略取」……
谷川俊太郎 虚空へ  …クンデラ
中野重治 (本は何で出来ているか?)  …グーテンベルク
マヤコフスキー(小笠原豊樹訳) ズボンをはいた雲2  …ゲーテ、ニーチェ、ホメロス、オヴィディウス……
生田春月 悪魔の嘆息  …ゲーテ「ファウスト」
川崎洋 代々のいちゃもん  …言海
井上靖 孔子  …孔子
中村稔 浮泛漂蕩(ふはんひょうとう)  …幸田露伴「渋沢栄一伝」
ツェラン (飯吉光夫訳)チューリヒ、鸛(こうのとり)ホテルで  …ザックス
友部正人 サルトルとボーヴォワール  …サルトル/ボーヴォワール
茨木のり子 わたしの叔父さん  …サン・テグジュペリ「星の王子さま」
高橋順子 椅子  …サン・テグジュペリ「星の王子さま」
津村信夫 手紙  …サン・ピエール「ポールとヴィルジニー」
ランボオ (中原中也訳)オフェリア  …シェイクスピア「ハムレット」
三好達治 沈黙  …ジャム「夜の歌」
鮎川信夫 必敗者  …シュウォーツ「夢のなかで責任が始まる」
尾崎喜八 槍澤の朝  …シュティフター「石さまざま」
原民喜 ガリヴァの歌  …スウィフト「ガリヴァー旅行記」
入沢康夫 フゥイヌムの国へ——午年にちなんで  …スウィフト「ガリヴァー旅行記」
安水稔和 (私はある人と……)  …「菅江真澄遊覧記」
辻征夫 船出  …スティーヴンソン「宝島」
中勘助 スピノザ  …スピノザ
白石かずこ ときは、さしせまった  …セルバンテス「ドン・キホーテ」
吉増剛造 独立  …荘子
宮沢賢治 マサニエロ  …チェーホフ
安西均 チェーホフの猟銃  …チェーホフ
井伏鱒二 勸酒(于武陵)  …中国名詩選
飯島耕一 母国語  …ツェラン
小池昌代 売れ残り  …ディキンソン
武満徹 詩、言葉そして余韻  …ディキンソン
長田弘 まことに愛すべきわれらの人生  …ディケンズ「ピクウィック・クラブ」
立原道造 白痴  …ドストエフスキー「白痴」
室井犀星 燭の下に人あり、本を讀めり  …ドストエフスキー「罪と罰」
草野心平 ドストエフスキー  …ドストエフスキー
三木卓 トルストイ  …トルストイ
木下杢太郎 時興  …ニーチェ「ツァラトゥストラ」ほか
萩原朔太郎 詩人の死ぬや悲し  …ニーチェ(エリーザベト・ニーチェ「ニーチェの生涯」)
ヒューズ (木島始訳)ハーレムの呼びかけ  …ハーメルンの笛吹き男、ほか
三富朽葉 土地  …パスカル
北村太郎 パスカル  …パスカル「プロヴァンシアル」
池井昌樹 サザエさんの星  …長谷川町子「サザエさん」
関根弘 ヒゲの生えたピーター・パン  …バリー「ピーター・パンとウェンディ」
松浦寿輝 たった一つの文字に1  …パリ国立図書館
小野十三郎 フアブル自然科學叢書  …ファーブル「昆虫記」
クラーク (永井羊肯訳)F・スコット・フィッツジェラルドの恋歌  …フィッツジェラルド
菅原克己 「ビュビュ・ド・モンパルナス」を読んで  …フィリップ「ビュビュ・ド・モンパルナス」
石原吉郎 その朝サマルカンドでは  …プーシキン
田村隆一 毒杯  …プラトン「パイドン」「国家」
小熊秀雄 不謹慎であれ  …ブレイク
ブランショ (粟津則雄訳)「ヘルダーリンの旅程」より  …ヘルダーリン
ボルヘス (長谷川四郎訳)カムデン1892  …ホイットマン「草の葉」
福士幸次郎 POEに献ず——11月  …ポー「大鴉」
エンツェンスベルガー(野村修訳) ニコロ・マキャヴェッリ  …マキアヴェッリ「君主論」
高村光太郎 旅に病んで  …松尾芭蕉「奥の細道」
萩原恭次郎 エンリコ・マラテスタの部屋  …マラテスタ
倉田茂 ペンを置いて  …マルタン・デュ・ガール「チボー家の人々」
那珂太郎 ロマネスク  …マン「衣裳戸棚」(トオマス・マン短篇集)
シュナイダー(川村二郎訳) 作家エル・エムの肖像  …ムージル「特性のない男」
辻井喬 白鯨(夜の四つの場所より)  …メルヴィル「白鯨」
谷川雁 毛沢東  …毛沢東
杉山平一 傾斜  …吉田満「戦艦大和ノ最期」
吉野弘 音楽  …ラアトブルフ「社会主義の文化理論」
石垣りん 感想  …ラ・マルセイエーズ
富永太郎 ランボオへ  …ランボー
シャール (窪田般弥訳)きみはよく出かけた、アルチュール・ランボーよ!  …ランボー
佐藤春夫 陸放翁の家  …陸游
釈超空 獨逸には 生れざりしも  …リルケ
高橋睦郎 September  …リルケ「涙の壺」
梶井基次郎 (詩人への手紙)  …ルソー「エミール」「告白」
西脇順三郎 燈台へ行く道  …ルナン「イエス伝」
芥川龍之介 レニン第二、レニン第三  …レーニン
清水哲男 フクちゃん  …レーニン「唯物論と経験批判論」
財部鳥子 魯迅の思い出  …魯迅
阪田寛夫 挨拶の下手な人に  …ロフティング「ドリトル先生航海記」
宮本正清 わらい  …ロラン「コラ ブルニヨン」
北原白秋 老子  …老子
山村暮鳥 雲、おなじく、ある時  …老子

「二十世紀以後の詩」の光景(長田弘)
出典