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文学シリーズ lettres

消去 下

AUSLOESCHUNG


〈死神の鈎爪にがっしりつかまれているのが分かる。死神は私が何をしていても、片時もそばを離れない〉

ベルンハルトが本書のモットーに掲げたモンテーニュの言葉である。彼のどの作品においても死と自殺のテーマがライトモティーフのように、繰り返される。ベルンハルトの世界は死に浸潤されている。希望や愛など肯定的価値を帯びたいっさいのものが生息する可能性を奪われた作品世界は、極小にまで切り縮められている。当然、狭く息苦しい。しかし、ベルンハルトの小説が徹頭徹尾暗く重苦しいかというと、そうではない。ここにベルンハルトの文学の奇跡がある。そこにはまるで別世界からさしてくるような透明な光が満ち、妙なる音が響いているのだ。世界を呪詛し自己を否定する独白は通奏低音のように暗く強いうなりを発しつづけるが、耳を澄ますと、その上に幾層にも積み重なった倍音が響いているのが聞こえる。その響きの中に、あるべき世界のイメージが浮かび上がるのだ。(「訳者後書」より)


「消去 下」の著訳者:

トーマス・ベルンハルト
Thomas Bernhard
1931年2月オランダのマーストリヒト近傍に生まれる。その特異とも言える氏育ちと作品との関係については、本書の「訳者後書」に詳しい。1957年に詩集『地上にて地獄にて』でデビュー、その後小説『霜』(1963)『石灰工場』(1970、邦訳あり)、自伝的作品5冊『理由』(1975)『地下室』(1976)『呼吸』(1978)『寒さ』(1981)『子供』(1982)などを発表し、独特の作風を確立する。劇作家としても『しばい屋』(1985)『リッター、デーネ、フォス』(1986)『ヘルデンプラッツ』(1988)など多数の作品がある。他に邦訳がある小説は『ヴィトゲンシュタインの甥』(1982)『滅びゆく者』(1983)。1970年にビューヒナー賞を受賞。20世紀のオーストリア文学のみならず世界文学を代表する作家・劇作家である。1989年歿。
※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。
池田信雄
いけだ・のぶお
1947年東京に生まれる。東京大学大学院総合文化研究科教授。ドイツ文学・異文化コミュニケーション論。『ノヴァーリス全集』(全3巻、共訳、沖積舎、2001)など多数の翻訳書のほか、数多くの映画字幕(『ベルリン天使の詩』共訳等)の翻訳がある。ドイツ語圏の文学紹介誌DeLiの編集長をつとめる。
※ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです。

この本の関連書


「消去 下」の画像:

消去 下

「消去 下」の書籍情報:

四六判 タテ188mm×ヨコ128mm/272頁
定価 3,150円(本体3,000円)
ISBN 4-622-04870-1 C0097
2004年2月5日発行

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