みすず書房

アリストテレスは、人間は国家の外にあっては、神か動物とならねばならず、法と正義から切離されては、動物のなかの最悪のものですらあると言う。この書は、人間の政治的運命にとって最も基本的な国家の観念について、新しいパースペクティヴを開く独創的試みである。著者は、国家に対するアプローチの三つの視角——実力・権力・権威——を厳密に区別する。それにより、ギリシアから現代にいたる学者・法律家・哲学者の国家の観念に鋭い分析の刃があてられるのである。
国家とは、政治的現実主義者の信ずるような単なる〈実力〉の組織ではない。〈権力〉の合法的な保持者にとって、それは本質的に一個の法的構成体である。しかし、法理論家も、合法性をこえて正当化された〈権威〉としての国家について、十分な説明を与えることはできない。しかも国家はまさにこれあるが故に、市民意識であれ、愛国心であれ、人間の政治的義務感に支えられて存立することができたのである。
したがって問題はこうである。実力を法に、恐怖を尊敬に、強制を同意に——必然を自由に、と変形させうるのは、いったい何であるか。本書は、この実力が権威になるまでの神秘的な過程に、初めて国家の本質を考究した名著である。

目次

序文
序論

第一部 実力
1 トラシュマコスの議論
2 現実主義と悲観主義
3 新造語としての〈国家〉
4 〈新君主国〉と〈実際的真実〉の方法
5 〈国家理性〉と実力国家
6 〈階級闘争〉と〈支配的エリート〉
7 現代政治科学における国家観念の解体

第二部 権力
1 人による統治と法による統治
2 国家と法——基本的観念
3 法の支配
4 主権を求めて
5 近代国家の生誕
6 桎梏を解かれたリヴァイアサン
7 〈混合的国家〉と〈権力の分割〉
8 法的制度の多元性
9 教会と国家
10 合法性と正当性

第三部 権威
1 法と秩序
2 自然と人為
3 祖国と民族
4 神権説
5 実力と同意
6 消極的自由
7 積極的自由
8 共同善

訳者註
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