みすず書房

本書は新進気鋭の研究者による宗教社会学の論文8篇を集めたものである。ウェーバーとトレルチは西欧近代の特質を歴史の中にみごとにきわ立たせてみせた。「どのような諸事情の連鎖が存在したために、他ならぬ西洋という地盤において、またそこにおいてのみ、普遍的な意義と妥当性をもつような発展傾向をとる文化的諸現象が姿を現わすことになったのか」(ウェーバー『宗教社会学論集』序言)という問いのもとに。

著者はウェーバー・トレルチによって、西欧近代市民社会を成立させた「諸事情の連鎖」を探り、彼らの分析道具を発掘することによって、現代日本の批判的自己認識を深めようとするのである。それは従来試みられることの少なかった「宗教と支配」という視点からである。「支配の宗教」と「抵抗・変革の宗教」という対比的概念に依拠して、古代ユダヤ教からプロテスタンティズムに至る流れ、またユダヤ=キリスト教とアジア的宗教の差異が明らかにされる。さらにまた、「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」論文における「隣人愛の非人情化」の概念の解読。自然法概念からするルター派的ドイツの性格の解明、ウェーバーの政治と学問をめぐって戦わされたモムゼン=ヴィンケルマン論争から浮び上がる精神的多面体としてのウェーバー像の提示など、若者ならではの新鮮な考察が全篇を貫いている。

[1983年初版発行]

目次

序論
I
1 ウェーバーにおける支配と宗教
2 宗教社会学とドイツ精神史(1)
 ——ウェーバーとトレルチ——
3 宗教社会学とドイツ精神史(2)
 ——トレルチとティリッヒ——
4 カルヴァンと「隣人愛の非人間性」
 ——「プロテスタンティズムの倫理」論文第2章第1節——
II
5 ウェーバーの宗教観
 ——いわゆる「現世拒否」の概念をめぐって——
6 ウェーバーにおける政治と学問
 ——《ヴェルトフライハイト》の問題として——
7 トレルチとウェーバー
 ——ひとつのスケッチ——
8 ウェーバー研究と「近代人の疎外」
 ——山之内靖『現代社会の歴史的位相』——
あとがき