みすず書房

〈「魅せられたる魂」の主な女主人公アンネット・リヴィエールはこの女性の世代の前衛に属するが、この世代はフランスにおいて、偏見と、道づれたる男性の悪意に反抗して、独立の生活に向って困難な道をきりひらかなければならなかった。勝利は、その後、みごとにえられた。……しかし最初の突撃部隊にとっては、戦闘は辛かった。——とりわけアンネットのように、貧しく孤独で、自由な母性の危険をあえて冒そうとした女性たちにとっては。〉
(ロランの序より)

〈アンネットは、現代の多くの女性にとっては、小説の人物以上の存在である。何となれば、彼女が生きた人生——その苦しみ、その生のたたかいは、現代女性の苦しみ、たたかいそのものであり、しかも、もっとも複雑な、多様な、そして深刻な形態における表現であるからである。彼女の経てきた道の峻しさ、その感情の微妙なつよさ、その悩みの正当なふかさは、近代の女性にとっては、ほとんど避けがたい、必至のものであり、この意味において、何人にもエトランジェなものではないのである。必ずや、彼女たちはアンネットの生活の中に己が生活の一面を見出し、その歓びと悲しみをわかち、己がこころの影をアンネットの裡にみとめるにちがいない。アンネットは、彼女たちに代って生き、彼女たちに代って戦うものである。)
(訳者のことば)

「魅せられたる魂」は10数年にわたって書かれ、一つの人生の教養小説Bildungsromanであり、大河小説roman fleuveである。全3巻として、第1巻には「アンネットとシルヴィ」「夏」「母と子」(第一部)を収める。

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(みすず書房では『ロマン・ロラン全集』を、第一次(全53巻、1947年1月—1954年10月)、第二次(全35巻、1958年11月—1966年8月)、第三次(全43巻、1979年11月—1985年12月)の三回にわたって刊行してきました。本書は、その第三次『ロマン・ロラン全集』の第5巻(1979年11月10日発行)を、2013年、オンデマンド版で復刊するものです。ここにご紹介するカバー画像は、オンデマンド版のものです)

目次

決定版の序(1934年1月)
第一版の序(1922年8月)

一 アンネットとシルヴィ
第一部/第二部

二 夏
第一部/第二部/第三部

三 母と子(つづく)
第一部

あとがき (訳者)