みすず書房

「漠然と単に一種の教養的読物として、子規の俳論的随筆類に目を遊ばしてみようとする人々の為めによりも、其身、俳句の実作者であると否とに拘らず、昭和現在の俳句及び俳壇の実質と様相、将来の其方向に就いて、関心と熱意とを抱く人々の為めに、先づ、子規の俳句観の骨子をなす材料だけでも提供して、正確に其主旨を理解して貰ひたいと望んで本書を編んだ。説明するまでもなく、昭和の俳句及俳壇の中枢をなしてゐる伝統俳句及び俳句陣は、すべて其源流と基礎とを、明治の子規に発し、子規に負つてゐるものである。子規の良識と事業との存在なくしては、今日の俳句文芸はあり得なかつたのである。されば、今日の俳句文芸の正しい理解はもとより、明日への正しい方向の、検討予測も、子規の俳句観に就いての知識を欠きつゝ樹てることは不可能である」(中村草田男)。

明治期における芭蕉の再検討たる「芭蕉雑談」に、蕪村俳句における積極美と理想美を称揚した「俳人蕪村」、子規の俳句理解の殆どを注入した「俳諧大要」、さらに子規による俳句革新の実況を示す「明治29年の俳句界」など、主要な論考7篇を収録。