みすず書房

ジャンケレヴィッチ

境界のラプソディー

判型 A5判
頁数 456頁
定価 6,820円 (本体:6,200円)
ISBN 978-4-622-07056-6
Cコード C3010
発行日 2003年8月22日
備考 現在品切
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ジャンケレヴィッチ

〈ひとはさまざまな思いを胸に国境を超えようとする。超えては捕われ、超えることに失敗しては連れ戻されながらも、再び越境を試みる。われわれの誰もがそのような密航者の末裔である。文化はいかに土着的なものであれ、すべからく密航者たちの遺産である。事実、途方に暮れたとき、ぼんやりと我が身を顧みるとき、われわれは、常日頃通る道路や自分の居場所が、ひいては自分の精神と身体、自分の存在そのものが数多の境界線に引き裂かれていることを感じ取る〉。

ウラジーミル・ジャンケレヴィッチ。ロシアはオデッサの亡命ユダヤ人の両親のもとパリに生まれた、20世紀を代表する哲学者。28歳のデビュー作『ベルクソン』から浩瀚な主著『徳論』へ、『第一哲学』から『死』『道徳の逆説』へ、その哲学者としての歩みは、着実にみえる。彼を特異にしているのは、ラヴェルやドビュッシー論など、音楽関係の本が多いからだろうか。いや、それだけではあるまい。著者は、ジャンケレヴィッチが好んだことば「ラプソディー」を一つの手がかりに、その膨大の作品群と同時代人の世界に深く分け入ってゆく。

『徳論』の現代的可能性とは。正義と慈愛、フモールとイロニー、グリザイユとは。分割=共有の倫理とは。構想からおよそ20年、気鋭の思索から生まれた大著がここにできあがった。

目次

序 見果てぬ曙光
綴れ/花の河岸/希望の哲学者/ささやかな書誌/主題と変奏/不協和音もしくはグリザイユ/暴力からの問い
第1章 境界を生きる人々
第1節 父と子
密航者たち/ラプソードス/行くひと/モンペリエ学派と生気論/田舎医者とその家族/新‐生気論と社会的現象学の夢/Traductore traditore/ロシア・ルネサンス/フロイトの百年戦争
第2節 若き生の哲学者の誕生
ポンティニーの十日会/さまざまな出会い/百塔の町へ/地下生活者/昼と夜
第2章 生と死のバロック
第1節 書き改められる頁
著作リスト/パッチワークの作品/伝統的造語/二つの他性
第2節 有機的全体性の迷宮
ベルクソン論の周辺/不在の論争/ジャン=マリ・ギュイヨー/内在と超越、共存と継起/無限分割/可能的なものと潜在的なもの/想起の逆説/与える経済と与えられる経済/モナド的交響曲/星座のバロック
第3節 大いなる自由
自由の神秘/持続と瞬間/ヴァール、そしてバシュラール/闇の原理と光の全力——シェリング/スピノザ主義の深淵/意志と意欲/モノとコト/善悪の交叉配列/実存の不幸と愛の秘儀
第4節 死と境界
精神的文化の悲劇/デロスの幻想/カントを起点として/ジンメルによるショーペンハウアーとニーチェ/社会と貨幣
第5節 フモールの岬に
書簡に見る経済原理/シェストフの二人の弟子/ウィトゲンシュタインとキルケゴール/すべてを少しずつ/言うことと行うこと/イロニーの正義とその罠/イロニーとフモール
第3章 諸徳のパサージュ
第1節 書物とその時代
『徳論』の生成/『徳論』の外的地平と内的地平/固有名のディオニュソス祭
第2節 欲望の曖昧な対象
自然・本性と快楽/歓喜と死/人間的自然・本性もしくは本能
第3節 ハッピー・エンド
最大多数の最大幸福?/錯迷の三期
第4節 諸徳の回廊
魂のかたち/勇気・虚言・誘惑/忠誠をめぐる戦場/謙遜と節度からの遊歩/崩壊感覚
第5節 正義と慈愛の稜線
正義の諸相——応報と交換/分配の謎/均衡の逆説/衡平・寛容・尊敬/人称の星座/きみ自身のように?/きみのユートピア/愛の位階/コンパッションの間奏/最大存在と最小愛/高邁とその影
第4章 善悪の狭湾(フィヨルド)
第1節 悪の組曲
グリザイユとは何か?/希望のランプ/表と裏のあいだ?/意志と悪/憎悪の諸相と愛/根源悪/グリザイユの倫理へ
第2節 小鳥の歌
見知らぬ同時代人/沈黙のアウラ/不協和音とポリフォニー/ラプソディー的多元性/物神の両価性/シンコペーション・トリック?/いくつもの沈黙/ヴァーチャル・ヴァーチュー/沈黙の世界地図
第3節 境界の途上にて——結語と批判的展望
異常な日常のプリズム/ノーマンズランドと砂漠のあいだ——サルトルからの宿題/実存することの分割=共有/震撼する群島/アレアリテ/残された課題/コナトゥスの戦場にて
略年譜
あとがき