みすず書房

黒部八千八谷。ふかく険しいV字谷が織りなす山峡を遡った先には、池塘とお花畑が点在する雲表の楽園がひろがる。

黒部を攀じり、黒部を撮り、黒部によって活かされ、黒部でみずからを表現してきた写真家/山岳ガイドが、厳しくも優しい自然への陶酔とおののき、そして光と水にきらめく一瞬の輝きを、50点のカラー写真と四季の文章で捉えた、写真エッセイ集。

「落石、崩壊、ナダレ、増水……死と隣合わせのなかで、一つまた一つと挑みつづけた。その記録は独特の緊張につつまれ、いいしれぬ美しさと迫力をもっている。

黒部の天地にあって、この人は虎のように絶壁を見上げていた。新種の動物のようにウロウロしていた。子供がこっそり冒険をするように谷へ降りていった。彼はいつも神話に出てくるヘルメスのように羽根のついたサンダルをはいている。」——池内紀氏

目次

鹿島槍ヶ岳から剱沢大滝へ  新たな旅立ちの日
春の下ノ廊下  黒部に魅せられて
剱沢大滝へ  「挑む」という感覚
高天原と岩苔小谷大滝  あの夏の日だけは忘れない
夏の北又谷  一途に駆け抜けた渓
夏の上ノ廊下  君と一緒に歩きたい
赤木沢にて  この一瞬が「無限」につながっている
仙人池と池ノ平  すべてを燃やしていく
黒部源流と雲ノ平  それぞれの可能性探し
晩秋の奥黒部  小屋閉めの季節
晩秋の剱沢大滝  あるテレビロケ
雪の黒部五郎岳  ただ心に焼き付けておけばいい

あとがき