みすず書房

本書は著者がリビアに滞在した折の体験と思考の記録である。

「リビアは極めて興味深い位置にある。地中海の南岸にあって、古代ギリシャ・ローマの植民地だった。アフリカの北にあって、アフリカの金と象牙と奴隷がローマに運ばれた。それから永い間イスラーム・アラブ文化圏の辺縁で眠っていた。これからアメリカと和解した後、リビアは地中海国家としてヨーロッパとの関係を深めていくのではないだろうか」

「〈ドン・キホーテ〉と呼ばれたカダフィは今、アメリカに屈伏した。しかし世界の虐げられた人々は、アメリカの追随者として生きていくしかないのか。あの自分勝手な正義と暴力をふりかざす帝国の動向に振り回されるしか、将来はないのか。否、失敗しても失敗しても、現在の国家と政治システムに代わるものを創ろうとする動きは、アメリカ国内を含めてすべての被抑圧地域から発生し続けると、私は思う」

この旅は、地中海世界の最古と現在を往還するものであり、また大西洋をへだてたリビアとアメリカの政治関係を考える旅でもあった。遺跡と文化、人々の暮らし、そして国際政治——著者の博識と旺盛な好奇心が縦横無尽に発揮されている。街を歩き、遺跡を巡り、文化・社会・政治に想いを馳せる。風景を見つめながら、そして民衆の中で、ヘロドトス、フロイト、ボブ・ウッドワードらの言葉を想起する。

上質の紀行文であり、著者自身が撮影した写真が立体的な彩りを添えている。主要地図7点と巻末にはリビア史年表を付した。本書の元本は、1990年に『リビア新書』として情報センター出版局より刊行された。新版希望の声と昨今のリビア情勢への関心の高まりを受け、このたび新稿を加え編集を一新し、お届けする。