みすず書房

持続可能な発展の経済学

BEYOND GROWTH

判型 A5判
頁数 384頁
定価 4,950円 (本体:4,500円)
ISBN 978-4-622-07174-7
Cコード C0033
発行日 2005年11月15日
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持続可能な発展の経済学

本書は、持続可能な発展の経済学のパイオニア、H・デイリーの経済思想のエッセンスを幅広い読者のためにまとめたものである。彼の活動は国際エコロジー経済学会の創設につながり、あるいはローマクラブ研究報告(『成長の限界』『限界を超えて』)の理論的支柱となるなど、持続可能な発展を指向する分野に大きな影響を与えた。にもかかわらず、本邦においてデイリー自身への注目は、これまで不当なまでに乏しかったと言える。現行の経済体系のどこに持続不可能な論理が働いているのか、それを明晰に見通すデイリーの声に、いまこそ耳を傾けたい。

本書では、デイリーの目指す定常状態の経済や環境マクロ経済の理論的要点はもちろん、自由貿易とグローバリゼーションの死角、GNPの代替案、人口問題、取引可能な汚染許可など、アクチュアルな問題の本質が語られている。そのすべてに通底しているのは、「成長マニア」の経済システムの矛盾や欠陥への鋭い批判であり、そこから問題解決への具体策を引き出すデイリーの建設的で堅実な思考であると言えよう。
本書では関連して、F・ソディとN・ジョージェスク=レーゲンの評伝も紹介されている。特に、原子爆弾の可能性を誰よりも早く認識し、核戦争の根本原因を解消するため、経済学者たちの冷笑をものともせず貨幣経済の問題に果敢に取り組んだ、ノーベル化学賞受賞者ソディの評伝はきわめて興味深いのでぜひ一読を。
最終部は、聖書(特に「ヨベルの年」という社会制度)に読み取れる経済的・倫理的原理から、現代社会への示唆を引き出す試みである。デイリーのひたむきな活動の背景に、彼のゆるぎない宗教的倫理観があることを強く意識させる部分である。

目次

序章 持続可能な発展に関する現代思想の様相
持続可能な発展と古典派経済学/持続可能な発展と世界銀行/持続可能な発展と学究生活/持続可能な発展と合衆国の政治/持続可能な発展、科学および宗教

第 I 部 経済理論と持続可能な発展
序論
第1章 定常状態の経済への移行
成長マニアの思想から定常状態の思想への移行——定常状態が解決できる、成長パラダイムの理論的・道徳的矛盾/成長マニアから定常状態への移行の実際——定常状態の経済への強制的な第一歩としての成長の失敗

第2章 環境マクロ経済学要論
最適規模の環境マクロ経済学/政策が理論を追い越す——引可能な許可は配分・分配・規模を強制的に分離する/経済はどれくらい大きいのか/カウボーイか宇宙飛行士か、それとも無神経な無骨者か/きらびやかな《矛盾》

第3章 消費——付加価値、物理的変換および福祉
消費と付加価値/消費と物理的変換/消費と福祉/結論

第 II 部 政策の運用と持続可能な発展
序論
第4章 自然資本への投資で持続可能な発展を操作可能化にする
自然資本への投資のシフト/自然資本への投資方法

第5章 環境的に持続可能な発展の促進——世界銀行に贈る四つの提案

第 III 部 国民勘定と持続可能な発展
序論
第6章 持続可能な国民純生産の尺度に向けて
持続可能な所得/防衛的支出/自然資本の減耗償却

第7章 持続可能な発展と国民経済計算
矛盾——「不可能性の仮説」 /費用・便益と資本勘定——GNPの代替案

第 IV 部 人口と持続可能な発展
序論
第8章 開発政策の手段としての人口扶養力——エクアドルのアマゾン地域とパラグアイのチャコ地方/エクアドルのアマゾン地域/パラグアイのチャコ地方/結論

第9章 ブラジル北東部におけるマルクスとマルサス——出生力の世界最大の階層間格差とその最近の傾向

第 V 部 国際貿易と持続可能な発展
序論
第10章 自由貿易とグローバル化vs環境と共同体
自由貿易によるグローバル化の利益を反証する事例/二つのありふれた反論に対する論駁/結論

第11章 調整から持続可能な発展へ——自由貿易の障害
新古典派のモデルが省略していること/自由貿易が持続可能な発展と相容れない理由/成長ではなく発展

第 VI 部 持続可能な発展の経済学における二人の先駆者
序論
第12章 フレデリック・ソディの経済思想
無視された経済学の物理的な基礎 大いなる混同──「富」対「負債」貨幣の欠点/改革案/ソディの経済思想の現代における妥当性

第13章 ニコラス・ジョージェスク=レーゲンの経済学への貢献——追悼論文

第 VII 部 倫理、宗教と持続可能な発展
序論
第14章 聖書の経済原理と持続可能な経済
不平等制限原理およびその聖書上の基礎/現代世界における不平等制限原理/不平等制限原理と定常状態の経済

第15章 持続可能な発展——宗教的洞察から公共政策の倫理的原理へ
持続可能な発展の宗教的基礎 持続可能な発展の倫理的原理 持続可能な発展のための経済政策 要約と結論

謝辞
解説 H・デイリー『持続可能な発展の経済学』の背景と可能性
訳者あとがき
原注
参考文献
索引

書評情報

植田和弘
日本経済新聞2006年2月12日
エコロジー経済学の開拓者、デイリーの待望の翻訳書である。本書は定義が百を超えるといわれる「持続可能な発展」の概念に関し、理論や政策はもちろん、人口、倫理、宗教に至るまで論点を広げて縦横無尽に論じた学際科学の成果で、体系的な経済ビジョンを浮かび上がらせることに成功した。
 本書で著者は、……持続可能な発展が満たすべき環境資源利用に関する自然的条件を「デイリーの三原則」として定式化した。公共政策論の公準となるべき原理を明確にした彼の功績は大きい。
週刊 エネルギーと環境
2006年1月5日号
野﨑浩成(京都文教大学教授)
金融財政事情」2016年10月3日号