みすず書房

漱石の〈明〉、漱石の〈暗〉

判型 四六判
頁数 256頁
定価 3,520円 (本体:3,200円)
ISBN 978-4-622-07176-1
Cコード C1095
発行日 2005年11月22日
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漱石の〈明〉、漱石の〈暗〉

「この本はわたしのこれまで書いて来た評論、あるいはエッセイの中では、もっとも読みやすいものだと思う。何しろひろく知られた夏目漱石についての文章であり、わたしも十代のころから少しずつではあるが、久しく読んで来た小説家だからだ。小説家だが、もともと子規と親友だった俳人であり、漢詩も作った英文学者だったことを忘れてはなるまい……

(9・11の同時多発テロがニューヨークで起きた時、その映像を見ながら)わたしは今後十年、二十年、心ある人にとっては何ともユーウツな日々が始まると直感した。なぜか徂徠の〈天〉が気になり、あの「躁」と「鬱」、「明」と「暗」の人、漱石をめぐって、まるで来るべきユーウツヘの抗ウイルス剤か、予防注射ででもあるかのように何事かを書いてみようか、と思った……」

徂徠の江戸から漱石の明治を経て西脇順三郎の現代まで、〈天〉と〈ユーウツ〉をキーワードにして文学=文明の歴史を問い直す。とりわけ、中心をなす漱石論は、息を詰めるように、ひたすら作品を読み込むことによってその核心に迫った、ユニーク作品=作家論である。いよいよ〈暗〉を増すかに見える時代にあって、未来の〈明〉を模索・構想した詩人による渾身のメッセージ。

目次

〈序詩〉通天橋

I
いみじき笛は天にあり
江戸と西洋

II
『吾輩は猫である』と漱石俳句
鴎外と漱石
中村真一郎説、明治の作家の日本語との苦闘
明治二十年代の俳句を読む
『草枕』とはどういう小説か
久しぶりの『草枕』
『それから』の代助と鈴木志郎康の初期の詩
バルザックを読む漱石 ——『ゴリオ爺さん』と『それから』

III
ユーウツな漱石 ——『彼岸過迄』及び『行人』をめぐって
画期的長篇小説の可能性、『明暗』を中心に
千谷七郎著『漱石の病跡』を読む
漱石とおないどしの小説家・露伴ノート
岡山に行った漱石
懐かしき瀬戸内の島山
世界の夏・源内の夢
小講演での話題
若い詩人たち、俳人たちよ、もっと怒れ
西脇さんの最後の座談

あとがき