みすず書房

「現代の科学者は、過去を振り返ってそこから教訓を得ることが不得手になっている。研究現場がかつての家内工業的な手作業から近代的な分業体制に移行して、研究の手法や研究室運営が一新されたことが根源にある。過去から何も学ぶべきことがないかのように思い込むようになったためだ。また、未来を想像することも忘れてしまった。現在の研究の急進展に遅れまいとするあまり、先行きのことまで考えられなくなったことに原因がある……。

しかし、だからこそ、現在を転回の時代と捉え直し、過去を省察する中で未来を展望する必要があるのではないだろうか。私たちには、過去から引き継いだものを確実に継承して未来に受け渡していく義務がある……浮かれ足となって足跡を絶やしてはならないのだ」(あとがき)。

本書は、転回期にある科学の話題をキーワードとして掲げ、39のそれぞれの項目について、まず歴史的な経緯を縦糸にして辿り、ついで現在の学問の状況を横糸にして転回の有りようを詳細に考察している。地球環境問題や生態系の危機など、人間の未来が危うい現在、本来あるべき〈科学〉を構想した、現代人のための〈読む辞典〉。