みすず書房

生物がつくる〈体外〉構造

延長された表現型の生理学

THE EXTENDED ORGANISM

判型 A5判
頁数 352頁
定価 4,180円 (本体:3,800円)
ISBN 978-4-622-07258-4
Cコード C1045
発行日 2007年2月9日
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生物がつくる〈体外〉構造

ミズグモの巣は体外の肺、ケラの巣穴は拡声器、ゴカイの潜穴はクロマトグラフィーの場──本書は生物がつくる体外構造物の例をとりあげ、その見事な構造や生理的性質を仔細に探っていく。物質やエネルギーの流れを見れば、生物の体だけでなく彼らがつくって利用しているモノまでが、私たちの直感をはるかに超えて、デザイン・機能ともに絶妙に最適化されていることがわかるのだ。これらの構造物について知るとき、改めて進化の創造力の偉大さに感嘆せずにはいられない。

もし進化の手が、生物がつくる体外構造を生物の体と一緒に精緻に彫刻しているのなら、それらの体外構造も生物の「延長」と見ることができるのではないか? 本書を読んで俄然具体性を帯びてくるこのような見方は、もともとR・ドーキンスが進化のメカニズムを考えるなかで概念化したものだ。本書はこの概念に生理学の側面から肉付けをする試みでもある。

著者の議論がどこまで一般化可能かは今後精査されるべき問題だが、本書との出会いは生物界全体についての固定観念を崩される貴重な機会となること請け合いだ。とりあげられている生物とその体外構造物の例について知るだけでも、身の回りの生きものたちがこれまでと違う輝きをもって見えてくるだろう。

目次

はじめに

1 生物のあいまいな境界
2つの生物学
見かけの生物を超えて
永続的な渦の確かな存在
環境の生理作用

2 生物の外側の生理作用
作用と相互作用
熱力学と秩序の形成
仕事と秩序の形成
ATP回路
熱力学と生理学:2つの例
生物とNOT‐生物の生理作用

3 生きている構造物
非効率の壁?
最小化による否定
非効率の壁を迂回する
エネルギーと進化
構造物はどのようにして生きもののように
ふるまえるのか

4 培養液と走性
微生物の培養液中の大規模な秩序
生理作用の起源

5 そして奇跡が起きて……
動物とは何か
カイメンとサンゴの作る建造物と生理作用

6 泥の威力
カンブリア紀爆発と潜穴の出現
酸化還元電位
海洋堆積物内の酸化還元電位
潜穴の内側は代謝の整流器である
タマシキゴカイの牧場

7 ミミズが土地を耕すと
稀なミミズ
淡水,海水,陸上に住む動物の生理学的特性
ミミズの「腎臓」
土壌中の酸素と水の分布

8 クモのアクアラング
単純さと複雑さ:オッカムのかみそりと
ゴールドバーグのてこ
エーゲ効果
プラステロン鰓

9 小さな昆虫とダニの巧みな操作
ゴールの生長と発達
植物のホメオーシスと芽や葉のゴール
葉の温度と光合成
葉の温度の物理学

10 コオロギの歌う巣穴
意思伝達とコオロギの歌
エネルギー論と音の発生
クリプシュホーン
放送標識と案内標識

11 超生物の魂
ホメオスタシスとは何か
生物のホメオスタシスの機能的要素
ミツバチのコロニーの社会的温度調節
適応性のある構造物:オオキノコシロアリ類の塚のガス交換

12 母なる地球を愛せ
地球の気候の「生理作用」
海洋の熱循環
ホメオスタシスと共生
ガイアと延長された表現型

エピローグ
参考文献
クレジット

解説
訳者あとがき
索引