みすず書房

著者はフランス語とフランス文明の研究に一生をささげた。とくに辞書の編集に心血を注いだ。第二次大戦後、10年の共同作業によって完成した『スタンダード仏和辞典』は「超良心的な業績」(大橋保夫の書評)とされた。三宅担当の発音標記は、本国フランスの辞書編集にも影響を与えたほどの画期性を持っていた。この辞書が戦後日本のフランス語利用者100万以上の人々の需要にこたえたことは、歴史的事実である。

三宅は、しかし、さらに前方を見ていた。辞書は、単に通訳の道具たるに止まるものではない。基礎語について一語一語の奥にひそむ“もの”の捉え方、発想方法から、世界認識に迫るコンセプトを必要とする。この見地から20年の歳月をかけて完成したのが『白水社ラルース仏和辞典』である。

“ことば”の発音から始め、意味の変遷と進化を、さらにその底にある構造へと迫ってゆく著者の努力——そこに、学問を知恵にみちびく高邁な精神の現われを感じないではいられないだろう。

目次

I パリから
妻への手紙(1951—1953)
友人への手紙(1951)
II デカルトとパスカル
デカルト『方法叙説』解題
パスカル『パンセ』の一語をめぐって
ポール・ロワイヤルの文法
III 辞書をめぐって
フランス語辞書四方山話
字引と文法
辞書、この終わりなき書物
『白水社ラルース仏和辞典』まえがき
ラ・ファイ『類義語辞典』——フランスの文学・思想の精華
ロラン・バルト序『アシェット辞典』について
IV 仏学事始
仏学事始
V 思い出
ひとつの国際学会
小林英夫さんの若さ
松原秀治氏を悼んで
鹿島さんとの旅の思い出
VI 対談三篇
言語・思考・人間——フランス語の世界・日本語の世界/対談・森有正
言葉と文化 対談・加藤周一
構造主義をめぐって——言語学と文学/対談・渡辺淳
三宅徳嘉著作目録
三宅徳嘉の生涯と仕事1917—2003/小尾俊人
あとがき/三宅清子
VII 言語について

書評情報

堀江敏幸
毎日新聞2007年3月4日(日)