みすず書房

〈自分よりも年上の人がおだやかな表情ですわっているのを見ると、心があたたまる。自分より年上の人が見あたらなくなったら、あかんぼうが安らかに眠っているのを見ると、やはり心が静まるだろう。人間の円環というふうなものを、感じるようになった。その先には生物の種の連環、存在の連環の感じがあるのだろうが、そういう感じは私にはまだない〉(北林谷栄『蓮以子八〇歳』の書評より、1991)

冷戦構造崩壊からバブル期をへて21世紀、そして現在まで、著者は何をみつめ、考えてきたか。第3巻(1988-2007)には、ソ連邦崩壊後のマルクス主義文献、『日本好戦詩集』について、雑誌『朝鮮人』の終りに、岩明均『寄生獣』論から、村上春樹、奈良美智、『ハンセン病文学全集』刊行によせて、吉本隆明『老いの流儀』、秋元松代論、ブロツキイ『私人』について、世界文学の中の『死霊』、神谷美恵子管見、川上弘美『パレード』解説まで109編を収録。巻頭に「わたしの100冊」、巻末には「みすず読書アンケート 1975-2005」および掲載文書誌一覧を付す。

目次

わたしの100冊
I 1988—1999
一歩兵小隊長が見た地上戦 山本義中『沖縄戦に生きて』 1988
名付親への感謝——上田辰之助 1988
『ヴァイキング』の源流——『三人』のこと 1988
たとえの効用——中沢新一『雪片曲線論』によせて 1988
棒馬から芸術への道をたどる E・H・ゴンブリッチ『棒馬考』 1988
赤川次郎のめがね 1988
たえず一点から歴史学をくずしてゆく 鹿野政直『「鳥島」は入っているか』 1989
即興の音楽をかなでる人 森毅『ひとりで渡ればあぶなくない』 1989
さまざまな自分史——私と戦争 1989
そうかもしれないという留保 『耕治人全集』 1989
梅棹忠夫頌 1989
ハンガリーから世界を見る 徳永康元『ブダペスト回想』 1990
久々の伝記文学の名作 大庭みな子『津田梅子』 1990
ひと口で言うと(宮沢賢治の作品) 1990
忠治と多彩な人物群像 高橋敏『国定忠治の時代』 1991
日本にこだわらない日本人——坂口安吾 1991
役柄をとおしての声音がひびいてくる 北林谷栄『蓮以子八〇歳』 1991
こどもむきに書かれた伝記 四方田犬彦『魯迅』 1992
魅力にあふれた世間ばなし 荒川洋治『世間入門』 1992
ソ連邦崩壊後のマルクス主義文献 1992
『日本好戦詩集』について 1992
主人公は誰か——武田泰淳 1992
どこにでもいるかもしれない——長谷川四郎 1992
雑誌『朝鮮人』の終りに 1992
一枚のカード——渡辺一夫 1993
日記の荷風 1994
10人の子どもたちに支えられて——対談・森まゆみ 1994
三つの雑誌 1994
鯨の腹のなかのオーウェル 1995
漫画から受けとる 1996
ノモンハンへの旅 村上春樹『辺境・近境』 1998
串田孫一の歩いた道——著作集の完結に寄せて 1999

II 2000—2007

いつもそばに、本が 2000
神隠しにあった町 児玉隆也著/桑原甲子雄写真『一銭五厘たちの横丁』 2000
作歌と選歌——近藤芳美 2000
カメラをひいて 加藤典洋『戦後的思考』 2000
エリセエフ先生の思い出——東と西の出会い 2000
奈良美智というひと 2000
図書館から図書館へ 2000
数世紀を生きたあとの鞍馬天狗 2000
漱石とわたし 2000
ひとつの劇として描いた伝記 杉山正樹『寺山修司・遊戯の人』 2000
真壁仁のまなざし 2000
すすめられた本、えらんだ本 2000
二十一世紀の読書 2001
ものの氾濫の現代をこえて 岡部伊都子『思いこもる品々』 2001
“がきデカ”日本 2001
ひとつの希望をもつテレビドラマ 福田靖ほか『HERO』 2001
新世代の見た森鴎外 2001
発想の交換——中谷宇吉郎・治宇二郎 2001
パレンケで会った水木さん 2001
一億一心の時代の備忘録 前坂俊之監修『傑作国策標語大全』 2001
時代に立ち向かう百合子 2001
平行的宇宙——中島敦 2001
夢野久作への登り口 2001
生きるという仕事——猪谷六合雄 2001
個人的な思い出から——『ハンセン病文学全集』刊行によせて 2001
中浜万次郎 未来の人 2001
モノを通じての心の成長 梨木香歩『からくりからくさ』 2001
目録で商う古書店主の物語 内堀弘『石神井書林 日録』 2002
昔話にききいる 河合隼雄『昔話と日本人の心』 2002
自分流の尺度をつくる 河合隼雄『臨床教育学入門』 2002
夏目漱石一万人の弟子のひとりに 2002
米国史の洗いなおし カニグズバーグ『Tバック戦争/影 小さな五つの話』2002
金子ふみ子『獄中手記 何が私をこうさせたか』 2002
老年読者 吉本隆明『老いの流儀』 2002
状況に閉じこめられない心——秋元松代 2002
ブロツキイ『私人』について 2002
マンガの新しい境地 高野文子『黄色い本』 2003
世界文学の中の『死霊』 2003
週刊誌から遠く スタインホフ『死へのイデオロギー』 2003
国民文学と非国民文学——吉川文学に見る『宮本武蔵』 2003
ずんどうの形の哲学史——田中小実昌 2003
きせる乗車の日本文化 2004
歴史の進歩への信仰をゆるがす 『新版 第二集きけわだつみの声』 2004
江戸文化を書き残す素描の集大成 『小沢昭一百景 随筆随談選集1-3』 2004
本の読み方——アガサ・クリスティ『動く指』 2004
長く広く見わたす 2004
戦中派の最良の人の書 吉田満『戦艦大和ノ最期』 2004
中井英夫について 2004
神谷美恵子管見 2004
羊男とは誰か? 2004
老年文学の境地 2004
世界とアジアの中の日本映画 佐藤忠男『誇りと偏見』 2004
本について五題 2004
2004 マイ・ベスト3——世界への展望 2005
現代にひらける細い道 春風亭柳昇『与太郎戦記』 2005
大きくつかむ力と瞬発芸 2005
御近所の哲学 2005
私にとっての鈴木六林男 2005
おなじ著者と六十年 2005
日向康と松川事件 2005
石橋湛山——この人・この三冊 2005
七十四年前の家庭新聞 日高六郎『戦争のなかで考えたこと』 2005
1904年と1905年を分水界として 山室信一『日露戦争の世紀』 2005
若い人に 2005
隔離の中に生きた人たち 畑谷史代『差別とハンセン病』 2006
負けにまわった鞍馬天狗 2006
日本語の起伏の楽しさを考えるききがき
武満浅香『作曲家・武満徹との日々を語る』 2006
丸山眞男と藤田省三に通底するもの 飯田泰三『戦後精神の光芒』 2006
『サークル村』復刻によせて 2006
『正伝 後藤新平』について 2006
ただ一作と言えば——『巌窟王』黒岩涙香翻案 2006
わたしの好きな短篇三作 2007
ユーモアの役割 ジョン・エイ『法律家たちのユーモア』 2007
串田孫一の思い出 2007
父から子へ 2007
編集者としての嶋中鵬二——この人・この三冊 2007
哲学の母 川上弘美『パレード』 2007

みすず読書アンケート 1975—2005
終わりに思うこと
掲載文書誌一覧