みすず書房

解離性障害、とりわけ解離性同一性障害はかつて多重人格と呼ばれ、19世紀の「第一次力動精神医学」にとって重要なトピックのひとつであった。しかしながら解離への関心はその後著しく衰退し、ふたたび解離が精神医学の表舞台に登場したのは1970年代の北米であり、わが国で解離性障害が注目を浴びるのはさらに後のことである。
そして今日、解離性障害について、幼少期の虐待体験との関連、また外傷後ストレス障害や境界性パーソナリティ障害との症候学上の類似が関心を集めている。本書では、ジャネのヒステリー理解を端緒に、パトナム、ハーマンらの外傷理論の再検討を通して、「解離」の学問的な布置を明らかにする。さらにこれまで外傷理論と共に語られ、解離への治療的接近として用いられることの少なかった精神分析的心理療法を中心とした本書の治療論は、外傷性精神障害の治療に新たな知見を提供するものである。
著者は研修医時代に解離性障害患者に出会い、以後、外傷理論と精神分析、そしてめまぐるしく人格交代する眼前の患者のあいだで苦闘してきた。著者の解離理解・治療論がどれほど臨床実践で磨き上げられたものであるかは、本書に記述された解離性同一性障害患者の心理療法過程にみることができるであろう。
患者と共に心的外傷に対峙し、解離の意味を探求しつづけてきた精神科医が、地を這うような臨床から導き出した、渾身の治療論である。

目次

序論 解離性障害治療私史

第1部 解離性障害を理解するために
第1章 総説——解離の理解と治療論
第2章 外傷と境界性パーソナリティ障害、そして、解離性同一性障害

第2部 ある解離性同一性障害患者との心理療法
第3章 心的外傷の再演としての治療外転移解釈
第4章 性的外傷、性倒錯、そして解離
第5章 心的外傷の再演の臨床的取り扱い

第3部 解離性障害をめぐる臨床上の諸問題
第6章 思春期解離性同一性障害患者の治療——心理療法、マネージメント、そして「抱えること」
第7章 離人症性障害の心理療法——患者によりあらかじめ期限が設定された心理療法
第8章 解離性障害と自傷
第9章 一般精神科臨床における解離性障害の治療に関する覚書

書評情報

妙木浩之(東京国際大学)
こころの科学2009年3月号