みすず書房

漱石文学が物語るもの

神経衰弱者への畏敬と癒し

判型 四六判
頁数 264頁
定価 4,180円 (本体:3,800円)
ISBN 978-4-622-07493-9
Cコード C1011
発行日 2009年10月21日
備考 現在品切
オンラインで購入
漱石文学が物語るもの

文豪・夏目漱石のおよそ50年の人生には、20代、30代、40代の後半にそれぞれ数年にわたって精神変調をきたした時期があった。のちに小説『坊っちゃん』のモチーフとなる松山中学の教師時代の20代後半。処女作『吾輩は猫である』をはじめ『坊っちゃん』『草枕』を次々に世に送り、文名をあげた30代後半。そして、『こゝろ』『道草』などの傑作でその人気作家としての地位を確立した40代の後半。
三度の病期は漱石の創作活動にどのように影響したのだろうか? 本書では作品や書簡、周囲の証言から、漱石自身の病い、作中に投影された病者へのまなざしを精神医学的観点から読み解いてゆく。著者の粘り強い検証から、漱石が単に物書きとして「神経衰弱文学」を誕生させただけでなく、一方ですぐれた精神医学者、そして精神療法家でもあったことをうかがい知ることができる。これまで漱石の作品に慣れ親しんできた読者も、漱石の歩みや物語に込められた想いを丹念におっていくことで、また新たな漱石像を思い描くだろう。
病いを抱えて生きることの尊さ、そして病んでいるからこそ向けられる畏敬のまなざし——。漱石文学に魅せられた精神科医による、病いと創作をめぐる出色の漱石論。

目次

序論
I
1 高等師範学校 松山行の謎
2 熊本時代 介護者としての漱石
3 英国留学 自己本位の確立
4 千駄木時代 神経衰弱文学の誕生
5 『坊っちゃん』の成立 神経衰弱者の世界
II
6 体格と性格の法則性
7 人間関係の反復性
8 自己相対化の過程
9 文明批評から心理分析へ
10 漱石の天才論
III
11 漱石文学における癒し
12 精神療法家としての漱石
13 漱石文学にみる精神療法
14 鈴木三重吉と森田草平への手紙
15 武者小路実篤への手紙
結語 病みながら生きる者への畏敬

初出一覧
夏目漱石略年譜

関連リンク