みすず書房

一般的な性愛イメージを越えて人と人の濃密な関係性を描き出すために、小説はどのような言葉の挑戦をしているのだろうか。
小説がステレオタイプの幸福を葬り、定型化された物語からの夜逃げを企てるとき、その先にあるのは剥きだしの言葉だけだ。そして言葉と言葉は交わり、愉楽と痛みに満ちた「恋愛感触」を紡ぎ出していく。
松浦理英子、多和田葉子、星野智幸、鹿島田真希… 小説を読み終え、恋愛や性をめぐるあたりまえの考えを喪失したとき、私たちの目の前には行き先のない快楽が現れ、新たなきっかけが開かれるのだ。
小説の挑発に呼応するためには、批評もまた、小説に触れてみなければならない。言葉に直接触れるように、批評と小説の新しい関係を鮮やかに差し出す、それが「小説の恋愛感触」である。

目次

はじめに——切ない背理
第一章 性器なき地平で  松浦理英子『ナチュラル・ウーマン』 
第二章 裸の固有性  松浦理英子『親指Pの修業時代』
第三章 わたしは犬になり、あなたはわたしになる  松浦理英子『犬身』
第四章 行き先のない快楽  多和田葉子『変身のためのオピウム』
第五章 視力の蜜度  星野智幸『目覚めよと人魚は歌う』
第六章 歪んだ文字  星野智幸『溶けた月のためのミロンガ』 
第七章 恋愛を葬る  水村美苗『本格小説』 
第八章 ヒロインの死  夏目漱石『虞美人草』 
第九章 視線と復讐  高木芙羽『フラワービジネス』茂田眞理子『スキンディープ』
第十章 母を喰い破る  三原世司奈『不妊クラス』村田沙耶香『授乳』
第十一章 冷たいスポンジのように  鹿島田真希『白バラ四姉妹殺人事件』 
第十二章 主婦の憂鬱が満ちるとき  鹿島田真希『ゼロの王国』から『女の庭』へ 

あとがき
引用文献

書評情報

町口哲生(評論家)
週刊読書人2010年8月27日(金)

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