みすず書房

“八ヶ岳は四季によって装いを変えるが、一日のうちでも、朝、昼、夕とその容貌が変化する。とりわけ、乗鞍の向こうに陽が沈むころ、夕映えの八ヶ岳が七色にも装いを変えたあと、くろぐろとして闇にとけこんでいくのを見つめていると、なぜか身がひきしまってくる”(「光を観る」より、p. 111)

2000年から9年間にわたって書き継がれてきた時評を編集した随筆集である。『信濃毎日新聞』連載の「今日の視角」から選んだ文化・社会的テーマの163篇より成る。文学・映画から美術まで、また花鳥風月からエコロジー問題までを、時代を見据え論じている。
雷道、粥占い、犬の復権、蕗の薹、秩父秋景、蔵の街の知恵、わらびの道、巨木の祭り、八ヶ岳山麓探鳥会、武蔵野の憂鬱、耳順、日本の森は大丈夫か、アホウドリの異議申し立て、いのちの授業——など。
移ろいのなかの変わらぬ美しい形をとらえた読み応えのある随筆集。歴史・社会への繊細な感覚と持続的批判精神で2000年代の出来事を考察する。

目次

2000年
アイ・ラブ・坊っちゃん/21世紀万博のあるべき姿/雛祭り/わが隣人・田中墾さん/閑谷学校を訪ねて/総合学習のスタートに/新緑のなかで/鳴滝塾の卒論/兎追いしかの山/森鴎外の漢文脈/小樽にて/エコロジーのゆくえ/大森貝塚から百二十余年/雷道/尖石考古館/老朋友/■[びん:門がまえに虫の字]南の旅/いま農業高校は…

2001年
峠に立つ/「秋田蘭画」展/粥占い/一八九九年横浜海港検疫所/蘇った木曾馬/三人の絵師展/ワサビア・ジャポニカ/砥川・東俣川を遡る/武蔵丸の相撲道/ジパング/五十歳になった一年生/風のつどい/犬の復権/椎茸と蓆/読書の秋/石間交流学習館/秋たけなわ/虚言一切申すまじく…

2002年
ソルトレイクシティ/暖炉と煙突/定年を迎えた一年G組/蕗の薹/「阿弥陀堂だより」/異色画家 望月桂/市町村三千は多すぎるか/オオタカのシグナル/因島自由大学/雷鳥が危ない/球生記者の遺言状/遠山谷の雨乞い祭り/今井澄さんを悼む/古稀同窓会の栞/野口英世の手紙/秩父秋景/犬の起源/元禄十五年十二月の雪/超高齢化社会のとば口で(二〇〇〇‐〇二年を振り返って)

2003年
蔵の街の知恵/“貴乃花引退”の危機/わらびの道/道祖神の戸籍台帳/烙印/八ヶ岳は初夏/ツバメとSARS/アレチウリの風景/生き残った矢川/わが味覚の歴史/光を観る/ソバと蜂と人間と/日本点字図書館/「地方の時代」二十五年/映画「草の乱」と伝蔵/経営者は“志”/ある異端画家の軌跡/水田の保水力

2004年
名水・柿田川湧水群/おつた/「魏志倭人伝」の島/サクラ保存林/「チンチン電車と女学生」/巨木の祭り/八ヶ岳山麓探鳥会/至福の時/旬/案山子祭り/登った調べた四十余年/プロ野球界の錯覚/水上勉さんを悼む/浅間山噴火/御池山クレーター/野口英世の歩んだ道/ドーア氏の危惧/北京での一夕

2005年
寒晒し/駅伝競走/五十年目のクラス会/武蔵野の憂鬱/モッタイナイ/牛が草を喰む風景/東京のソメイヨシノ/象山の借金通帳から/伴走者の死/越前大野の街で/ヤーコンの栽培/珠玉のような絶筆/鼻ミズと栗/蘆花忌に/スキヤキのうたげ/冨嶽三十六景/「2005年問題」/念願の霜月祭り/市町村合併騒動(二〇〇三‐〇五年を振り返って)

2006年
年頭豪雪に思う/竹内好研究よ興れ/「映画監督って何だ!」/昭和ヒトケタと団塊/CO2から生まれた食器/頽廃芸術と言われて/中野孝次「ガン日記」から/多田富雄さんの抗議/銀の雫となって/「ジダン 神が愛した男」/木崎夏期大学九十歳/甲子園の暑い夏/敬老の日に思う/吉村昭さんの遺作/グラミン銀行と消費者金融/教育界の喫緊事は何か/よみがえる地域の教育力

2007年
椎葉村の猪/二十四節気/老師節/映倫五十年の歩み/偏奇館焼亡/起これテレビ・リテラシー/禰々御料人の化粧料/縄文先生ありがとう/黴雨と梅雨/坂部の掛け踊り/昔、萱無尽があった/耳順/軽井沢町長殿/中秋の月/晩秋のムクドリたち/灯火親しむ季節に/タウン誌の追悼特集/日本の森は大丈夫か

2008年
駅伝/コドモノクニは何処いった…/コンビニ弁当16万キロの旅/たちまち日記/帰ってきた小栗忠順/「巡礼」と「東方の門」/ジュゴン裁判の行方/若者に観せたい映画『休暇』/グローバル化とWTO/一茶探訪/アホウドリの異議申し立て/今田平の農家民泊/基礎科学が健康だった時代/朝の読書大賞/いのちの授業/「緑響く」が汚される/会社が壊れるとき/暗澹たる医療・福祉政策(二〇〇六‐〇八年を振り返って)

あとがき

関連リンク

「トピックス」

上記「トピックス」では、エッセイの一篇「光を観る」を掲載しています