みすず書房

ドイツを焼いた戦略爆撃1940-1945

DER BRAND

判型 A5判
頁数 520頁
定価 7,260円 (本体:6,600円)
ISBN 978-4-622-07551-6
Cコード C1022
発行日 2011年2月21日
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ドイツを焼いた戦略爆撃1940-1945

第二次世界大戦中に英米軍がドイツ全土に加えた史上空前の空爆は、延べ400回、死者数は60万人に上ると言われ、そのうち7万5000人が子供であった。しかし戦後、ナチによる犯罪の贖罪に一貫して努めてきたドイツでは、これが国民の苦しみとして語られることはほとんどなかった。封印は21世紀に入ってからようやく解かれ、そのきっかけとなったのが本書の刊行である。
空爆を先に実行したのはドイツ軍だった。一方、英米軍の空襲はドイツの敗色濃厚な戦争末期に集中した。軍事目標への精密爆撃はやがて人口密集地での絨毯爆撃に変わり、火災嵐を起こして焼き尽くす作戦が最も効率的とされた。多くのドイツ人が避難所とした地下室は猛火の自然現象により死の空間となり、狭い地下道網ではパニックによる圧死が頻発した。この現代戦の機構はいかにして作動し、逸脱していったのか。容認される大量殺人はあるのか。戦争犯罪とは何か——。戦後の軍事裁判で、空爆による民間人殺害が法的審査を受けることはなかった。
ドイツでの爆撃戦争にこれほど深く分け入った本は他に類がない。ゲルニカから広島・長崎に至り、現在も終わらない空爆の歴史を考察する上で重要な一冊である。

目次

第1章 兵器
目標への接近  爆撃されるヴッパータール・バルメン地区

放火術のエンジニアたち  高性能爆薬弾とブロックバスター弾/火災に弱いドイツの都市/旧市街・住宅地・屋根/燃焼物質/焼夷弾

重爆撃機  「飛ぶ要塞(フライング・フォートレス)」/モスキートとムスタング/夜の町を照明弾でマーキングする/爆撃手長/爆弾の弾道学/クリープバック現象/爆撃機用ベデカー旅行案内書

レーダー  無線誘導電波の発見/ドイツのクニッケバイン光線/独英レーダー合戦/ジーとオーボエと誤差許容範囲/無線誘導という幻の世界/フライアとヴュルツブルク/カムフーバー・ライン/アルミ箔片/製造合戦・出撃回数・爆撃機の損失/機上レーダーの導入/妨害技術

乗員  航法士・機上砲手・第一パイロット/「経帷子」/高射砲/高射砲のサーチライト/ドイツ軍の迎撃戦闘兵器/「荒くれイノシシ」と「おとなしい豚」/爆撃機パイロットの不安と犠牲/「誰に向かって疑念を述べればよかったのだろう?」

第2章 戦略 
「士気を挫く爆撃」への道  爆撃戦争における人的損失/ドイツ軍のワルシャワとロッテルダム空襲/チャーチルと実現しなかった1919年の空戦/第一次世界大戦とツェッペリン飛行船/1940年夏のロンドンとベルリン/戦略爆撃のはじまり/新しい原理の起草者/1940年秋のロンドン爆撃/コヴェントリーとドルトムント/チャーチルの「大胆なカード」/アメリカを参戦に誘導する/「絶滅攻撃」構想/メンヒェングラットバハからマンハイムにおける1940年の試み/工業目標を探す(1941年)/精密爆撃からの逸脱(1941年)/1942年2月14日の「地域爆撃指令」/爆撃機軍団司令官ハリスとリューベック空襲/千年紀作戦/1000の爆撃機ケルンを襲う/黙示録級大破壊の夢/爆撃機の川/一回目のルールの戦い/レムシャイトの廃墟/爆撃をめぐるイギリスの世論と教会の論争/物理学者の良心/ダム爆破と現代版ノアの洪水/細菌戦争の準備/最後の9カ月の業火/火災嵐の発見/プフォルツハイム/ハンブルク/カッセル

ラインへの道  侵攻地域を蹂躙する/ビッグ・ウィーク/英米軍によるフランス爆撃/南イタリア空襲/カーン/封じ込められたアウシュヴィッツ爆撃計画/V1・V2ロケット/ジークフリート線/アルンヘム作戦とエメリヒ、クレーヴェの壊滅/アーヘン市街戦/ ヒュルトゲンの森の戦い/ヒュルトゲンの森からの脱出/ユーリヒとドゥーレンの抹消/製油施設・交通路攻撃/機銃掃射/ゴッホ、クサンテンからライン川下流地域への進軍/ライン川渡河とヴェーゼルの終末/二回目のルールの戦い/ルール包囲網/ザウアーラント征服/メシェデ/チャーチル、爆撃戦争から降りる/スヴィーネミュンデの大虐殺

第3章 国土
北  ハンザ同盟都市/リューベックとトーマス・マンのメッセージ/ロストックの大管区指導者(ガウ・ライター)/アンクラムのきのこ雲/ヴィスマルの燃えるような赤煉瓦/予備目標シュトラールズント/シュテッティンのオルガン/ダンツィヒとドイツの起源に対する戦争/キール湾入り江の両岸/ハンブルクあるいは世界の中断/ブレーメンへの173回の空襲/エムデンの心臓/ヴェーザーの砦/パーダーボルンとオークの巨木/ハインリヒ獅子公が結婚式を挙げたミンデン大聖堂/オスナブリュックの坑道/高架橋/ヘルフォルトの国民突撃隊/ビーレフェルトとベーテル小児精神病院/ヒルデスハイムの駅/ヴェーヴェルスブルク/ゾーストと鉄道/ミュンスター大聖堂/ハノーファー、あるいは目標「工業/ゴム」/ブラウンシュヴァイクの日曜日

西  ラインラント/聖イルムガルトが作った町レース/ディンスラーケンのカトリック病院/デュースブルクの地震爆弾/クレーフェルトの消防隊/デュッセルドルフのナポレオン/ケルン、そしてフン族の戦い/爆撃訓練の地、ボン/コブレンツの幸運/ビンゲン上空のアメリカ軍「リベレーター」/ゲーテ、ハリス、マインツ攻囲/歓待の町ヴィースバーデン/ヴォルムスの焔/プファルツ継承戦争、チャーチル、マンハイム/カールスルーエの幾何模様/ブライザハの廃墟/アーヘンの神話/トリーアのコンスタンティン・バジリカ教会/ザールブリュッケン二波空襲/カイザースラウテルンの木/エッセンと100万の焼夷弾/フレーデブルクのヒトラー/ドルトムント封鎖 

南  ブルゴーニュの谷、フライブルク/ヴュルツブルクと第五爆撃航空群/皇帝の要塞ニュルンベルク/アウクスブルクと極寒の火災/ミュンヘン壊滅/逃げ道を失ったシュトゥットガルト/ハイルブロンと逆向きのテロ 

東  ライプツィヒ、あるいは地下室から外へ出ること/マグデブルクと240秒/ハルバーシュタットの扇 /ドレスデンとダルムシュタット/精密破壊/ベルリン陥落

第4章 防衛
丸天井下の避難所  サイレン音/地下室/放射熱と燃焼ガス/カッセルの地下室網/ドレスデン旧市街の地下道網/コンクリートの鉄拳、ブンカー/坑道・コンクリートのパイプ・塹壕/「ブンカー女」/中に入るための戦い/防空地下室のユダヤ人/「ブンカー病」 

銃後  埋葬の儀式/住民共同体/防空監視員/灯火管制/1000機爆撃の夜のケルン/消火用水/ブラウンシュヴァイクの水の道/瓦礫に埋まる/不発弾の信管を抜く/遺体収容/ヒトラーの集合墓穴禁止令/遺体の身元確認部隊

ケア  受け入れ施設/仮設宿泊所/目の負傷/病院ブンカー/余剰患者の抹殺/補償金の支給/システム防衛と司法テロ/略奪者/国防力破壊/密告

疎開者  ハンブルクからの避難民/減少する都市人口/学童疎開/受け入れ大管区(ガウ)

第5章 我々
悪しき雰囲気、良き態度  プロパガンダの数字/イギリス人の辛抱強さを賞賛/抵抗、無力感、細菌入り郵便物/「ヒトラーを倒せ、そうすれば平和になる」/見捨てられたラインラント地方/「ケルン大聖堂を巡る大騒ぎ」/勝利への確信消える 

報復  ヒトラー最後の公式演説/「イギリス国民を全滅させなくてはならぬ」/爆撃被災者/外国人労働者の監視/報復兵器/敵軍パイロットへのリンチ

第6章 自我
感覚器官  危険と音/恐怖の感知/声の喪失/主観的時間と現実の時間 

感情  高まる暗示への感応性/遮断された感覚/「私ではなく、見知らぬ人間のような気がした」/情動麻痺

体験  揺れる壁/消火用水による溺死/爆撃された病院/子供の死/子供の認識/人間の残骸 

第7章 石
動かざるもの  フランクフルトのゲーテ生家/城/ボンのベートーヴェン生家を守る/バンベルクの馬上騎士像の保護 

移送  ケルン大聖堂中央祭壇の彫刻/バロック様式祭壇と教会の窓/輸送される絵画/公文書/国立公文書館の鉄道旅行 

書籍  揺籃期本/バイエルン国立図書館の火災/岩山、塩坑、カリ坑への文書の避難/史上最大の焚書/紙は生き永らえる

編集付記
日本の読者のための後書き
訳者後書き

略年表
原注
文献
索引

[書評] 難波達興「「加害」の国ドイツの「被害」を考える」

難波達興氏による長文の書評「「加害」の国ドイツの「被害」を考える」が、『岡山の記憶』第13号・2011年(岡山・十五年戦争資料センター)に掲載されています。
著作権者および関係者のご好意により、ここに転載させていただきました。

難波達興「ブックレビュー 「加害」の国ドイツの「被害」を考える——イェルク・フリードリヒ『ドイツを焼いた戦略爆撃 1940-1945』」(PDFファイル)ダウンロードはこちら

書評情報

保阪正康(ノンフィクション作家)
朝日新聞2011年5月1日(日)
渡部佳延
三省堂書店公式ブログ「神保町の匠」2011年5月
http://www.books-sanseido.co.jp/blog/takumi/2011/05/post-297.html
いける本・いけない本
2011年冬号

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