みすず書房

「これまで私は、草原の中にぽつんと立っている一本の木のような文章を書きたいと思っていた。その木は下を通る人たちに何かを要請することはない。黙って通り過ぎていってもなんらさしつかえない。それが少しずつ、木の下で憩う人がいてくれるとよいな、そしてそこでひととき語り合ってくれるとよいなと思うようになった」

どんな本を読み、どんな本を書き、どのように書き手と触れ合ってきたのか。長年にわたって精神療法の世界で活躍してきた著者が回想する、ありのままの〈私〉と〈本〉。読み方だけでなく、書評をする、編集する、翻訳する、書くという営みを、自身の体験や交流した臨床家たちへの追想を交えながら綴る。
文字通り本と〈対話〉し、自身の心の動きをとらえ他人に伝える、心の専門家ならではの感性。本書は、日本の精神医学・臨床心理学史の一頁にして、精神療法家・成田善弘の半生記である。

目次

まえがき

第一章 書き手と自分自身に交わる読書
(一) 私は何を読んできたか
(二) 本を読むとどういうよいことがあるか
(三) フロイトを読む
(四) 小説を読む
(五) エッセイを読む
(六) インタヴューを読む

第二章 書評、書き手の心の源泉に参入する
(一) こんな書評を書きたい
(二) 私の書いた書評、著者をめぐる追憶

第三章 医学と心理学、そして学派間の対話の場を編集する
(一) 編集は創造である
(二) 編者としての問題意識
(三) 記念論文集を作る

第四章 翻訳して適切な言葉の使い方を学ぶ
(一) 翻訳するようになったきっかけ
(二) 最初に訳した二冊
(三) なぜ翻訳するのか
(四) 日本語の特徴に気づく
(五) 誤訳について
(六) 共訳者について

第五章 自分の心が感じたことを確かめるために書く
(一) なぜ書いてきたか
(二) 誰にむかって書くか
(三) どう書くか

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