みすず書房

「名前を聞いただけで、すぐさま節まわしや十八番のセリフが浮かんでくる。川田晴久だと〈地球の上に朝がくる〉であり、トニー谷だと〈レディース・アンド・ジェントルメン・アンド・おとっつァん・おっかさん〉。花菱アチャコだと〈むちゃくちゃでござりまするがな〉。まるで算数の九九のようにしておよそとりとめのない言い廻しをそらんじている」
(仕事場ノート)

昭和は二〇年代、半ズボンの少年はラジオの前にすわってじっと聴き入った。ラジオを通して知ったことを、ハナたらしの子供は少しも忘れず、それらのリズムは今にいたるまで彼の頭のどこかでこころよく響いている。本書は、そうした懐かしい演芸とほんものの芸人の思い出をじっくりと語った、宝物のような一巻である。夢声・ロッパ・浪花千栄子から三升家小勝・リーガル千太・万吉、さらに野ざらしや船徳・王子の狐・真景累ケ淵などの落語とその地誌まで。絶妙な語り口が甦る。

目次

I 地球の上に朝がくる
川田晴久とダイナ・ブラザーズ/トニー谷/無声・ロッパ・エノケン/砂川捨丸・中村春代/花菱アチャコと浪花千栄子

II はなしの名人
野ざらし/品川心中/船徳/悋気の火の玉/文ちがい/藁人形/王子の狐/小言幸兵衛/真景累ヶ淵/怪談乳房榎

III 懐かしの演芸館
三升家小勝——水道のゴム屋/松鶴家光晴・浮世亭夢若——曾我物語/春風亭柳枝——宗論/リーガル千太・万吉——焼きとり屋/中田ダイマル・ラケット——家族混線曲

仕事場ノート