みすず書房

自然との和解への道 上

エコロジーの思想

WEGE ZUM FRIEDEN MIT DER NATUR

判型 四六判
頁数 304頁
定価 3,080円 (本体:2,800円)
ISBN 978-4-622-08163-0
Cコード C1010
発行日 2005年6月10日
オンラインで購入
自然との和解への道 上

「この著作の根本思想は、ひとつの命題、《人間の外にある自然は、われわれの自然的共世界(Mitwelt)である》に要約できる。」(「日本語版への序文」より)

環境先進国ドイツにおける、本格的な環境哲学を紹介するはじめての本である。著者マイヤー=アービッヒは、エッセン大学で教鞭を執ってきた哲学者であるのみならず、マックス・プランク研究所で量子力学を研究した物理学者でもあり、ドイツ連邦議会のエネルギー政策審議会の一員として、またハンブルク市の大臣として、環境政策の政治決定にもたずさわってきた。

本書においてはじめて、「実践的(=政治的)自然哲学」が提唱される。適切な自然理解と環境政策を統合する人間の行為を問うのが、実践的自然哲学である。そのためにアービッヒはまず、従来の受け身的な環境政策を批判し、自然を自然自身のために配慮する新たな環境保護立法を提案する。そして、真理への問いに開かれたプラトン以来の討議的政治と、理性的行為のうちに自然の意図をみるカントの倫理を継承し、自然の秩序に適った産業経済を可能にする科学技術を模索する。

人間もまた自然的共世界の一部である自然中心主義的世界像へ向けて、自然科学・哲学・政治を根本から問いなおす記念碑的労作の完訳、上巻。シリーズ《エコロジーの思想》第二弾。

目次

日本語版への序文
1章 序論(導入と見とおし)
1・1 物理学、哲学、政治における三つの希望の光——個人的体験
1・2 環境と共世界、工業社会の思いあがり——I部への見とおし
1・3 八人と八世界——II部への見とおし
1・4 政治哲学と真理に方向づけられた政治——III部への見とおし

I部 あたかも世界の中心がわれわれにおいて回っているかのように
2章 成長の限界に直面した従来の環境政策批判
2・1 マルサスからメドウズへ——先延ばしされた成長の限界
2・2 ドイツ連邦共和国における小さな環境政策の失敗
2・3 将来の安全は多数決で可能か
2・4 環境のようには固有の価値をもたない環境政策
2・5 環境政策における新しい価値
3章 自然保護、天然資源そして自然災害——法における自然の理解
3・1 基本法における自然
3・2 人間中心主義的環境法
3・3 環境立法における進化の兆し
3・4 基本法には生態学的均衡はなく、経済的均衡だけがある
3・5 浄化された人間中心主義とは
4章 自由と必然——人間中心主義的世界像の哲学的批判
4・1 カント——人間は人間にたいしてだけ義務を負っているか
4・2 経済——資源としての人間
4・3 精神科学的解決——精神の騎士たち
4・4 自然科学——物理学者なき物理学
4・5 自由の規程のもとで自然を思惟する

II部 自然との和解の条件
5章 自然の全体のなかの人間
5・1 自然史における人間
5・2 実践的自然哲学——人間において自然は言語化される
5・3 共世界の人類への期待
5・4 間違った区別——人間社会は閉じられた社会であるか
5・5 正しい生存競争
5・6 唯物論者の間違った自然観念
6章 物である自然と自然である物
6・1 手つかずの自然だけが自然か
6・2 自然法則にしたがうものはすべて自然であるのか
6・3 資源としての自然
6・4 自然に適った経済秩序を求めて
6・5 規範的自然理解における自然的なるものと非自然的なるもの
6・6 芸術作品ですら自然的でありうる
7章 自然との和解——その前提、条件そして地平
7・1 自然との和解のコンセプト
7・2 新しい夢そして陸と海を越えて突き進むこと
7・3 現存するものの維持か——自然との停戦の条件
7・4 法と経済における自然との和解の比較的長期にわたる条件
7・5 新しい意識の条件
7・6 自然の歴史

訳者あとがき
参考文献目録