みすず書房

地球の洞察

エコロジーの思想

多文化時代の環境哲学

EARTH’S INSIGHT

判型 四六判
頁数 568頁
定価 7,260円 (本体:6,600円)
ISBN 978-4-622-08165-4
Cコード C1012
発行日 2009年11月20日
備考 現在品切
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地球の洞察

「私はツルの沼沢の隠れ場に立って、崇敬の念に打たれて静けさのなかに佇む。そしてこの湿った荒れ地から、アメリカカラマツの上をトランペットのように鳴きわたる大鳥と私とがともに生まれてきたことを思う。(…)この場所はツルなのだ。そして私はツルなのだ。はたして、それは私の夢だったのかもしれない」。
1983年からキャリコットは、ユネスコの委託を受けて、東西の枠を越えた「比較環境倫理学」を研究テーマに、さまざまな国際会議を組織し、論集やアンソロジーを編集してきた。そうした活動を通じて培ってきた研究と対話が、ここに結実した。
西欧の環境思想にとどまらず、ヒンドゥー教、仏教、道教、儒教、禅といった東洋思想や、ポリネシア、北米インディアン、南アメリカ、アフリカ、オーストラリアの先住民たちの大地と生命をめぐる伝統的な自然観をもへだてなく概観し、比較考察する。さらに、ポスト・モダンの進化論‐生態学的環境倫理を構想し、スリランカやタイなど非西洋地域の環境への取り組みにも、熱いエールを送る。
「生態学(エコロジー)にしっかりと基礎づけられ、新物理学によって補強された環境倫理は、世界の多くの土着の思想的伝統と衝突するのではなく、それらと対をなし、補完し合うものになることだろう」。
生物の多様性と文化の多様性は密接に結びついている。21世紀のパラダイムとは、こうした多様性を損なわず、しかもそこに統一と調和をもたらす生態系(エコシステム)の探求である。グローバル時代の環境問題を考えるうえで欠かせない最重要書。

目次

日本語版への序文
はじめに

第一章 序論——環境倫理の概念と必要性
倫理と環境倫理
倫理の実践性
環境倫理——伝統、近代、ポスト・モダン
比較環境倫理と一と多の問題

第二章 環境に対する西洋の態度と価値観——その歴史的起源
ユダヤ—キリスト教の伝統
専制君主の解釈/番人の解釈/市民の解釈/番人の環境倫理
西洋の歴史的起源としてのギリシア—ローマ
神話/哲学
イスラーム
ガイア[地母神]の復権
女神のスピリチュアリティ/ガイア仮説/地球倫理

第三章 南アジアの知の伝統における環境に対する態度と価値観
ヒンドゥー教
ジャイナ教
仏教
結論

第四章 東アジアの伝統的なディープ・エコロジー
老荘思想(道教)
儒教
結論

第五章 東アジアの仏教の生態学的な洞察
華厳
天台と真言

日本人と環境——一つの逆説

第六章 極西の環境倫理
ポリネシア人の宗教世界
アメリカ・インディアンの土地に関する知恵
ラコタのシャーマニズム/オジブウェーのトーテミズム
まとめ

第七章 南アメリカの性愛の生態学
南北間の比較哲学
南アメリカの心の生態学
トゥカノのシステム論/カヤポーの農業—生態学
結論

第八章 アフリカの生物共同体主義とオーストラリアのドリームタイム
アフリカの情景
一つの逆説/アフリカの思考の多様性と統一性/ヨルバの神学における人間中心主義/
サンの自由の作法/アフリカ後記
保全活動家としてのオーストラリアのアボリジニ
オーストラリアの世界観の諸要素/オーストラリアの環境倫理

第九章 ポスト・モダンの進化論—生態学的環境倫理
ポスト・モダニズムとはなにか
一と多の問題
科学の系譜
ポスト・モダンの科学革命
環境倫理の自然史
レオポルドの土地倫理——そのポスト・モダンの諸性質
結語

第十章 伝統的環境倫理の実践活動
番人の環境倫理の実践活動
ヒンドゥー教の環境倫理の実践活動
仏教の環境倫理の実践活動
スリランカのサルヴォーダヤ運動/タイにおける仏教の森林保全活動
結論

監訳者解説
脱西洋近代と日本の伝統思想——訳者あとがき

索引

書評情報

広井良典(千葉大学教授・公共政策)
朝日新聞2010年1月24日(日)
環境ビジネス
2010年5月号

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