みすず書房

エコロジーの政策と政治

エコロジーの思想

ECOLOGY, POLICY, AND POLITICS

判型 四六判
頁数 344頁
定価 4,180円 (本体:3,800円)
ISBN 978-4-622-08167-8
Cコード C1012
発行日 2011年12月14日
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エコロジーの政策と政治

「政治はその構成員の善い生活をめざすべきであり、また善い生活とは何かという議論を含むべきであるとされる理由は、政治が寛容の徳と両立可能であるだけでなく、まさに寛容を促進させるからである」。
人間の幸福(善)を、人間が所有する潜在能力(連帯意識、美の観照、よりよい暮らしの創造など)の発達と捉えるアリストテレスの概念を引き継ぎ、非人間的自然世界や将来世代と、私たち自身の幸福を関係づける市民社会を構想する好著。
「科学と芸術は、非人間的世界の多様な性質に、利害にとらわれずに応答する能力を発達させ、そうすることで、われわれの感覚を人間化する」。
「政治は、人間の実践の多様性がゆたかに花開くものとして構想されなければならない。(…)政治は、他の手段によって追求される市場として取り扱われてはならない」。
善の理念は、個人の欲求や選好のたんなる集積ではない。欲求を消費財に結びつける新古典派経済学の費用便益分析も、科学技術を拒絶する環境主義も共に退け、マルクスからフランクフルト学派の社会理論、ロールズやウォルツァーなどの政治理論、ハイエクやセンなどの市場理論を批判的に継承しながら、福祉と公正に根ざしたエコロジーを探る。

目次

第一章 人間の幸福と自然的世界

第二章 自然、内在的価値、人間の幸福
2・1 内在的価値の多義性
2・2 価値の源泉と対象
2・3 価値と非関係的性質
2・4 客観的価値と自然的世界
2・5 内在的価値と人間の幸福

第三章 将来世代と自分自身への害
3・1 将来世代と現在の害
3・2 快楽主義と刹那的観点
3・3 市場と刹那的観点

第四章 環境政策の決定権者
4・1 費用便益分析、その概要
4・2 政策の決定権者
4・3 将来を割りびくこと
4・4 費用便益分析ともの言えぬ者たち

第五章 費用便益分析の正当化——幸福からの議論
5・1 費用便益分析の正当化
5・2 幸福論的正当化
5・3 費用便益分析、科学、議論
5・4 理性、選好、環境的善
5・5 理想、選好、エリート主義

第六章 多元主義、自由主義、善い生活
6・1 自由主義と善い生活
6・2 アリストテレスの善い生活と自己充足
6・3 多元主義——善と信念
6・4 理性的討論、多元論、意見の一致
6・5 ミルと古典的政治理念
6・6 いくつかの修正——エコロジー、美、多様性

第七章 多元主義、通約不可能性、判断
7・1 価値——通約不可能性、比較不可能性、不確定性
7・2 環境的価値——記述、評価、多元性
7・3 費用便益分析と通約不可能性
7・4 通約不可能性、推移性、判断
7・5 実践理性の二つの説
7・6 支払う意思——商品と通約可能性

第八章 権威、民主主義、環境
8・1 権威——「理性主義」と非理性性のあいだ
8・2 権威の二形態
8・3 権威の二つの問題
8・4 権威の限界と懐疑という手段

第九章 科学、政策、環境の価値
9・1 科学——必要性、信頼性、不十分性
9・2 グリーンに抗して、科学に抗して
9・3 自律、価値、科学
9・4 科学、驚き、目の欲望

第十章 市場、家政、政治
10・1 家政と市場
10・2 家政、政治、非市場的社会組織
10・3 あるべき場所におかれた市場?
10・4 市場、市民社会、全体主義
10・5 非市場的社会組織と環境的善


訳者あとがき
文献
事項索引
人名索引

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