みすず書房

「統合失調症の薬物療法の方は第三世代の抗精神病薬の出現によって、この30年間に一定の進歩があったと思われるのに、残念ながらそれに比すると精神病理学的な妄想研究からは心理的精神的治療にとくに資するところがあったとは思えない。それよりももっと気になるのは、1980年以後この種の精神病理学的研究が日本のみならず欧州でもぱったり途絶えたことである」(「解説」より)

 本書の初出となる論文の書かれた1978年以前、妄想をめぐって正常と異常の境界をどこに引くかについて、あまたの精神医学者によって議論されてきた。ドイツ語圏、フランス語圏、そしてわが国においても、妄想は精神病理学が人間を理解し、病いを定義するうえで、もっとも重要な起点となるトピックだったのである。
 本書ではドイツ語圏の精神病理学者たちの先駆的な研究を中心に、妄想の成り立ちから経過・治療までを各学派がどのようにとらえてきたのかを体系的に解説する。
 中井久夫、安永浩、木村敏ほか、学史を賑わせた日本の精神医学者の研究をも渉猟した本書は、20世紀精神病理学の思想地図とも言うべきものである。

目次

まえがき
1 妄想の定義——妄想知覚論
2 妄想の成立条件
3 妄想の力動
4 妄想の人間学
5 妄想主導の諸病態
6 妄想の経過
文献
解説

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