みすず書房

原因と偶然の自然哲学【新装版】

NATURAL PHILOSOPHY OF CAUSE AND CHANCE

判型 A5判
頁数 240頁
定価 4,620円 (本体:4,200円)
ISBN 978-4-622-08589-8
Cコード C3042
発行日 2016年11月18日
備考 在庫僅少
オンラインで購入
原因と偶然の自然哲学【新装版】

本書は、近代物理学の発展に即して因果律や決定論の意味を分析し、量子力学の統計的法則性に哲学的基礎づけを与えたものである。
ハイゼンベルクは、原子内の電子の運動や軌道といった直接には観測にかからないものを放棄し、原子から放出される光の振動数や強さなど物理的に観測できるものによって理論を構成すべきであると提唱した。この要請の重要性に着目したボルンは、それが数学的には行列論によって理論展開できることに気づき、ボルン‐ハイゼンベルク‐ヨルダンによって「行列力学」が定式化された(1925年)。
ボルンはまた、シュレーディンガーの波動関数は粒子の実体そのものを記述したものではなく、その存在確率を示すものと解釈すべきことを提案した(1926年)。これが「波動力学の確率解釈」といわれるもので、以後の量子力学の発展に大きな役割を果すことになる。こうして、観測の理論は原理的な意味をもって物理学に登場し、古典的な粒子像から新しい量子力学的描像への一大変革がなしとげられたのである。
本書は、まず古典力学において確立された「原因」と「偶然」の概念を検討し、これらの概念を基礎にその後の物理学の展開を跡づける。そして、統計的・確率的性格をもつ量子力学が物理学の基礎理論としての資格をもつか否かを問い、確率論的な理論構成は因果律や決定論と矛盾するものではなく、むしろ巨視的現象をも包括する普遍法則となりうることが提示される。
著者は自ら量子力学の建設に貢献をなしたほか(1954年ノーベル物理学賞受賞)、幾多の俊才を育てたことでも知られる。

[初版1984年3月12日発行]

目次

まえがき
記号

第 I 章 序論
第 II 章 因果律と決定論
第 III 章 例証:天文学と質点力学
第 IV 章 近接
連続体の力学/電磁場/相対論と重力場の理論
第 V 章 先行:熱力学
第 VI 章 偶然
気体分子運動論/統計力学/一般分子運動論
第 VII 章 偶然と先行
第 VIII 章 物質
質料、エネルギー、および輻射/電子と量子
第 IX 章 偶然
量子力学/非決定論的物理学/量子論的物質運動論
第 X 章 形而上学的結論

付録
1. 多重原因(II, p. 8)
2. ケプラーの法則からニュートンの法則を導くこと(III, p. 13)
3. 連続体に関するコーシーの力学(IV, p. 21)
4. マックスウェルの電磁場の方程式(IV, p. 25)
5. 相対論(IV, p. 28)
6. 古典および現代熱力学について(V, p. 39)
7. 接近の定理(V, p. 40)
8. 化学平衡の熱力学(V, p. 44)
9. 気体中の音速(V, p. 45)
10. 不可逆過程の熱力学(V, p. 45)
11. 気体分子運動論の基礎(VI, p. 47)
12. 統計的平衡(VI, p. 50)
13. マックスウェルの汎関数方程式(VI, p. 51)
14. 最も確からしい分布の方法(VI, p. 52)
15. 平均値の方法(VI, p. 54)
16. ボルツマンの衝突積分(VI, p. 55)
17. 気体における不可逆性(VI, p. 57)
18. 統計力学の定式化(VI, p. 29)
19. 準周期性(VI, p. 62)
20. ゆらぎとブラウン運動(VI, p. 63)
21. 多重分布関数の還元(VI, p. 67)
22. 多重分布関数をつくること(VI, p. 67)
23. 流体の一般論から衝突積分を導くこと(VI, p. 68)
24. 流体における不可逆性(VII, p. 71)
25. 原子物理学(VIII, p. 74)
26. 単分配の法則(VIII, p. 76)
27. 量子力学における演算子法(VIII, p. 90)
28. 不確定性原理の一般的定式化(IX, p. 93)
29. ディラックによる量子力学におけるポアッソン括弧の導き方(IX, p. 95)
30. 密度行列に対する摂動論(IX, p. 99)
31. 量子統計の汎関数方程式(IX, p. 110)
32. 気体の縮退(IX, p. 111)
33. 量子論的運動方程式(IX, p. 113)
34. 超伝導(IX, p. 116)
35. 思考経済(X, p. 121)
36. 結びのことば(X, p. 124)

補遺(1950年)
訳者あとがき
索引