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『数学は最善世界の夢を見るか?』
最小作用の原理から最適化理論へ イーヴァル・エクランド 南條郁子訳
ちょっと待て! どこが数学の話なんだ、物理学の話じゃないか、と思われるかもしれない。本書の物語はガリレオの「振子の理論」から始まり、光の経路についてのフェルマーの「最小時間の原理」、モーペルテュイの「最小作用の原理」をめぐる自然哲学論争を経て、解析力学、運動の幾何学、カオス現象、といった話題が続く。でも著者の意図は、物理学史を描きたいというのとは、ちょっと違うのだ。
ガリレオが、ニュートン、オイラーが、あるいはポアンカレが、ある共通の着想に導かれ、偉大なブレイクスルーを成し遂げた。それは、解析的なものの見かたが幾何的なものの見かたに翻訳できるという、数学の言語で表される事実を手がかりに、宇宙の真理に近づけるかもしれないという着想だ。著者はそれを、“時を空間に翻訳し、運動を図形に翻訳する”ガリレオのプログラムと呼んでいる。少し長くなるが、本書の序文から引用してみよう。
- ガリレオ以前、運動は古代ギリシアの昔から尽きせぬパラドックスの源だった。ゼノンの理屈では、的に向かって放たれた矢は決して的に到達せず、アキレウスの足がいくら速くても先に出発した亀には追いつかないはずだった。だがガリレオ以後、運動の研究は幾何学の問題に帰着し、パラドックスは解消した。【中略】実はわたしはガリレオのプログラムはいまだに未完成で、ここ20年間できわめて重要な進歩がなされたと思っている。じっさいガリレオの夢は、時を空間に翻訳し、運動を図形に、力学の問題を幾何学の問題に翻訳することだった。そういう幾何学は存在する。シンプレクティック幾何学がそれだ。しかしながらこれが発見されたのは彼の時代より2世紀も後のことであり、これを研究して何らかのよい結果が出せるほど数学が進歩したのはつい最近のことだった。
「ガリレオのプログラム」のスケールと魅力に、ぜひこの本で触れていただきたい。シンプレクティック幾何学の研究に自身も携わった数学者である著者は、まさにこれ以上を望みようもないほど理想的な語り手だ。
モーペルテュイは最小作用の法則の発見者としてこのプログラムに大きな貢献をしたが、モーペルテュイ自身のテーマはガリレオのそれとは別にあった。彼が心を奪われたのは、「最善」に至る仕組み、「最適化」という考えである。著者は言う。「わたしは、モーペルテュイは最適化のアイデア――ある評価基準に照らして、可能なかぎり良い働きをするシステムをつくるという考え――が近代社会でいかに重要になるかを理解した最初の人ではないかと思っている。」モーペルテュイの時代から300年を経た現代社会において、最適化の科学がいかにありとあらゆる分野でますます重要になりつつあるかは、いまさら強調するまでもないだろう。本書の後半は、最適化の科学および人類の未来についての哲学的な瞑想となっている。仙人ならぬ数学者ならではの、じっくりと世界を見つめる眼差しでとらえた情景を、私たちもこの機会にゆっくりと眺めてみたい。
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