みすず書房

吉岡斉・名和小太郎『技術システムの神話と現実』

原子力から情報技術まで [20日刊]

2015.05.12

科学・技術論の語り手として理想的なお二人に、現代の技術がはらむ問題について論じていただいた。下記8テーマを論じ、さらに「高速増殖炉開発の未来」「情報セキュリティ」についての書き下ろし論稿を加えた。

1 核施設の過酷事故
2 コンピュータ西暦2000年問題
3 SPEEDI(緊急時放射能影響予測)
4 グーグル
5 放射性物質の隔離管理
6 知的財産権
7 再生可能エネルギー
8 自動機械(人工知能)

名和さんの得意分野は情報社会論であるのに対し、吉岡さんの得意分野は原子力・エネルギーの現代史である。得意分野を異にする二人が、いかにして自由な発想による対話を展開し、読者の関心に応える本をつくるかを相談した結果、テーマの「提案者」と「受け手」を順次交代して対話を進める方式にたどり着いた(その方法によって多角的な内容となる)。個別の8テーマを選ぶ前提は“重要インフラを論じる”ということ、これが本書の出発点であり目的であると合意した。こうした対談形式を取ったことにより、個々の議論が専門家以外にも読みやすく、取っ付きやすくなっている。読者諸賢の関心の強い順に読んでいただければ幸いである。

「この対談に私が期待することを申し上げます。それは、私たちが付き合っている技術というものが、人間が作ったものであるにもかかわらず、人間的な尺度を超えてしまって、いろいろな不都合を起こしているのではないか、ということです。これが私の基本的な認識で、それをこの対談で具体的なテーマに即して確かめてみたい、ということです。 吉岡さんと私とは、経歴も違いますし仕事も違っています。私の方は縦社会を横歩きしてきた人間で、そういう退役技術者として話をさせていただきたい。それから戦後の技術導入を知っている世代、そういう世代の一員として、話をさせてもらいたい」
(名和小太郎「はじめに」p. 1)

「技術による解決というのは、私はできないと思っています。技術は万能ではなく、情報を操作する技術に比べて、物質を操作する技術、とりわけ大きく重い物質を操作する技術は、発展速度がはるかに遅いと思います。日本の経済力が将来にわたって豊かであり続けるとも思いません。……潤沢な資金がなければ核廃棄物の処理・処分はきわめて困難になります。……もちろん人材確保も困難となるでしょう。日本が「経済大国」でなくなれば、優秀な人材は海外へ頭脳流出するかもしれません。残った人材も後始末的な仕事を好まないかもしれません」
(吉岡斉「放射性物質の隔離管理」p. 104)

「率直に言えば、私は経済現象、社会現象にかんするシミュレーションをあまり信用していません。自然現象における保存則に相当するものがなにか、それが見えないことが多いからです。それにモデルのパラメータにどんな数値を入れるのか、ここに恣意性があるように思えて……多くの場合、関連省庁の意向や関連業界の圧力があるようですね」
(名和小太郎「自動機械」p. 164)