みすず書房

イギリスや日本のメタファーとしても読み取れる地中海に浮かぶ架空の島国エルグ。ここでは〈エネルギー通貨〉が流通経済の基礎となっている。パン1山は5.6キロワット時というふうに。首都ジュールからの第1報は、いま未来の選択をめぐって白熱の論争が起こっていると伝えている。
この書は、エルグの寓話に託しつつ、現代のエネルギー高度依存構造の底にある虚偽と不条理を透視する試みといえよう。著者はまず消費の三つの形態を仮設する。そこにさらに熱力学の基本原理と数学の有効な操作にもとづくエネルギー分析の手法を加えて、未来の具体的な計測をおこなう。とともに地球をおおう熱的危機の実態があざやかに描かれる。例えば、逆ユートピアへ驀進する原子炉発電、高濃度炭酸ガスに起因する温室効果の発生と異常気象、輸送の矛盾などが立証されるであろう。
著者はいう、「エネルギー問題は、当事者がわれわれに信じこませようとするよりはるかに広いオプションがある。……が、いずれにしても問題のない未来は存在しない」と。果たして楽園への救済なのか、あるいは惨憺たる地獄への破局か、何とも知れぬ未来に向かって。
著者は、エイモリ・ロヴィンズ(『ソフト・エネルギー・パス』)と同世代で、物理学専攻の論客である。